五十九話 具a——したかった……
遅れてしまいすみません!
本当にすみません!!
火球が雷の矢が、水の槍が土の弾丸が、光の剣が闇の波動が、空に放物線を描き魔獣達へ降り注いだ。
大幅に数が減ったが、土煙を突き破り飛び出して来るのは無数の魔獣達だった。
「……キリがないのう」
「距離もかなり詰められてますね……」
馬車の中から見える外を眺めていた鬼丸と律が、減った気がしない魔獣の群れに話し合っていた。
葛葉達を乗せた馬車を含め、数十台が絶賛魔獣から逃走中だった。
「……」
二人が外の光景に釘付けになってる間、葛葉は目元の涙を拭った。
「葛葉様……楽になりましたか?」
優しく頭を撫でられ、柔らかくスベスベな太腿に頬がくっ付き、と葛葉は膝枕をしてもらっていた。
葛葉や小隊が避難するため馬車の止まっている所まで逃げて来た時、葛葉はズーンと暗い顔をしていた。そのため五十鈴は、半ば強引に膝枕をしたのだ。
「……こんなことしてていいのかな」
「私は構いませんよ、むしろ日頃―――いえ、毎分毎秒いついかなる場所であってもやりたいです!」
「ん〜そうじゃないけど」
葛葉の沈みきっていた心も今は軽くなったのか、少しだけ明るい雰囲気を纏っていた。
「葛葉様は優し過ぎますよ。……それがいい所であり、悪い所でもありますが」
「耳が痛い話だね……」
ツンツンと頬を突かれ、耳の痛い話をされたため片耳を片手で塞いだ。
「誰も死んで欲しくない気持ちは分かりますが、これは戦いであることを忘れないでください。……戦場ではどんなに優れた武将も、どんなに優れた知将であっても、最後は呆気ないものですから」
五十鈴の言葉に葛葉は、それもそうかと納得した。
戦場では所詮皆一緒なのだ。一騎当千、万夫不当の豪傑であっても、気を抜けば死んしまう。
何があるかわからないのが戦いだ。
「アサヒさんに貰ったこの命、有効活用しないとだよね……」
「む、なんじゃ? まぁた無理をしようと言いよるのかのう?」
ムクリと膝枕してもらっていた五十鈴の膝から起き上がり、葛葉は自分の手を見つめた。葛葉の呟きとその行動に鬼丸が顔をムスッとさせ、そう尋ねて来た。
葛葉は頭を振り無理ではないと言った。
「……ただ、私に出来ることをしたいの。それを無理だとは、私は思わない……!」
他の馬車は魔獣の大群に攻撃をしているのに、この馬車からは何もしていない。(遠距離攻撃できる者が居ないため仕方ないのだが)
だから葛葉は自分にできること、それを見出したのだ。葛葉の固い決意に鬼丸は押し黙った。
そして、
「ならば力を貸してやろう。わしの力じゃ、とんでもないぞ?」
「……暴走しない?」
「今したとしてのう……意味あるか?」
膨大な力にはよくある暴走、だがきっと大丈夫だろう、と葛葉はそう思った。何せくれる本人がああなのだからだ。
ふと葛葉が力の貰い方を鬼丸に尋ねようとした時だった。
グイッと葛葉の胸倉を掴み、少しだけ強く引き寄せては、強引に鬼丸は葛葉の唇と自分の唇を合わせたのだ。葛葉が驚いていると、鬼丸は葛葉が逃げないように頭を手で押さえた。
「―――ッ⁉︎」
そして深いキスを始めた。
葛葉の顔がみるみる内に真っ赤になっていき、目からは涙が滲み始めていた。
「ちょちょちょ⁉︎ お二人さん⁉︎」
「……く、葛葉様っ‼︎ あぁ、葛葉様の……初めてが……!」
突如キスを始めた二人に驚く律は、両手で顔を覆い見ないようにするが、指の隙間からチラチラと見てしまう。
そして五十鈴はつい先程深い方の初めてが奪われたことに絶望していた。
「私が初めてを貰いたかったのにっ‼︎」
「五十鈴さん⁉︎ これ、普通のキスなんですか⁉︎ く、葛葉さんの顔が‼︎」
美味しそうなリンゴのように真っ赤な葛葉の顔に、律が焦り始めた。
そしてそれから数秒して、鬼丸は葛葉の頭を押さえていた手を退けて唇を離した。すると涎が糸を引き、それを鬼丸がしたり顔を浮かべ、指で切った。
「ふっふっふっ……」
葛葉は口を手で押さえて、今起きたことをどうにか理解しようとした。が濃厚なディープキスのせいで脳が正常な機能をしなくなり、次第に葛葉の脳みそはエラーを吐き出した。
そんな葛葉とは違い、鬼丸はドヤ顔で、
「これで力を貸してやったのじゃ。貸す方法は体液の交換じゃったからのう、少々手荒ではあったが、気持ちよかったであろう?」
そう言っていた。
そんな鬼丸を無視して律は、頭から煙を上げる葛葉の前に立ち、目の前で手を振った。が葛葉は白目を剥いたまま静止していた。
「ダメです、完全にオーバーヒートしてショートしてます……」
「なんじゃと⁉︎ くっ、処女には刺激が強過ぎたか。まぁ良い、これでも譲歩したのじゃからな」
律の言葉にドヤ顔が一瞬で崩れ去った鬼丸は、親指の爪を噛みながら少し反省していた。
譲歩したと言う言葉に、律は首を傾げた。
「譲歩、ですか? 本当は何するつもりだったんですか⁉︎」
「む? 何って決まっておろう?」
「?」
勿体ぶる鬼丸に律は更に首を傾げた。
そして鬼丸が次に口を開いた時だった。
「もちろん具a―――ぐぶぇ⁉︎」
口を手で塞がれた直後、鬼丸の腹部に強烈なブローが叩き込まれたのだった―――。
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