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五十八話 本心

「はよ行けぇ‼︎」


 開いた道を指しアサヒは葛葉へ叫んだ。

 葛葉は駆け出した。重い装備を着た兵士二人を担ぎながら、くたびれている脚に鞭を打ち、死体塗れの悪路を素早く慎重に走った。

 背後からは刀が魔獣の爪牙と打つかり合う音が鳴り始めた。


「っ」


 葛藤を噛み殺し、葛葉は前を向いて足を動かすことに専念する。すると、魔獣の包囲網から抜け出した。

 意外とあっさりと抜けれたことに葛葉が呆けていると、逃げ出して来た獲物に気が付いた魔獣が飛び掛かった。

 鋭利な爪が葛葉を引き裂こうとした瞬間、


「―――英雄さんッ‼︎」


 背後で耳を劈くような金属音が鳴り響いた。

 振り向けばそこには魔獣の爪を受け止めたシオリがいた。


「三人ともご無事ですね!」

「っ、行かなきゃ」


 魔獣の包囲網から抜け出して来た葛葉達の怪我の有無を視認したシオリは、素早く指揮を飛ばした。

 そんなシオリとは逆に、葛葉は腰のナイフの柄を掴みつつ来た道を戻ろうとした。


「―――待って下さい‼︎」


 ガシッと腕を掴まれてしまい葛葉は背後を振り返った。


「っ、何を……!」


 掴んできたシオリに怪訝な表情を浮かべたが、そのシオリの目端には涙が浮かんでおり葛葉は口を噤んでしまった。


「今の我々に……副隊長の救援に行ける余裕は……ありませんっ」


 言いにくそうに、苦しそうに言うシオリに、葛葉は後ずさった。その周りでは戦える小隊の兵達が遅い来る魔獣と剣を交えていた。


「……それに、副隊長は」


 涙のダムが決壊しボロボロとシオリは涙を流し始めた。そしてシオリは特に魔獣が集まっている場所を見やった。


「任せたと……」

「じゃあ、なおさら!」


 葛葉がアサヒの心意を察してまた走り出し向かおうとすると、シオリは再び強く葛葉の腕を掴み引っ張った。


「どうか、副隊長の意思を……覚悟を無駄にはしないで下さい‼︎」

「……でもそれは」


 見殺しにすると言うことで、葛葉が先程決意したこととは反する行為だ。

 葛葉がどうしようも出来ないこの状況に奥歯を噛み締めていると、


「小隊長‼︎ 魔獣が!」

「っ! そんなっ……‼︎」


 交戦していた兵士の一人が指差す方には、更に多くの魔獣が向かって来ていて。

 そのあまりの数にシオリは言葉を失った。

 まだまだアサヒが戦っていると言うのに、更に多くの魔獣がやってくることに。


『―――シオリ。逃げるんやで! 信じとるからな!』

「っ、副隊長……!」


 伝心魔法によるアサヒのその最期の指示に、シオリはありったけの思いを込めた声で、


「アサヒ副隊長‼︎」


 名を叫ぶのだった―――。




「―――はぁ……こないなことになるんやったら」


 折れた刀を構えながら愚かな自分を嘲笑しつつ、人生最大の心残りをぼやく。


「あいつに……(にのまえ)に、ちゃあんと口で伝えとくべきやったなぁ」


 かの盲目の少女の顔を思い浮かべて口角を上げてしまう。

 そして折れた刀を構えて三体の大型魔獣に立ち向かう。


「『好きや』ってなぁ……」


 そして最後にそう言い残し駆け出した。

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