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五十七話 逃げ道

「散開っ‼︎」


 アサヒの号令と共に小隊はバラバラに散らばった。

 大型魔獣の大振りな攻撃は見事に空振り大地を穿った。


「……よし。―――って、英雄⁉︎ 何しとんねん‼︎」


 散開し人数が揃っているかチラ見で確認していたアサヒが、その奥で大型魔獣の首を掻っ切っていた葛葉を見付けた。

 そして何度目かの大きな声を上げてしまった。


「…はぁ」


 葛葉の行動にため息を吐き、アサヒは頭を抱えた。


(こちとら、英雄(お前)を死なせたら色々問題あるっちゅうねん。ほんまどないしよ……)


 葛葉の扱いに困っていた時だった、


「っ、副隊長っ‼︎ アサギ二等兵が‼︎」


 シオリのその報告にアサヒは後列を見やった。するとそこには転けたのか地面に倒れていた兵と、負傷兵が魔獣の爪に引き裂かれる寸前だった。

 足の向きを変えてその兵達の下に駆け出すがどう見ても間に合わない、そんな時だった。

 魔獣の身体が粉々に斬り刻まれたのは。


「……英雄、か。すまん、助かった」


 魔獣を斬り刻んだのは、魔獣の背後に立つ葛葉だった。短く礼を言ってからアサヒは兵士達を運ぼうとして、


「アサヒさん!」

「っ。囲まれよったか⁉︎」


 予想以上に来るのが早かった魔獣達に、アサヒ達は全方位囲まれてしまったのだ。

 動けない兵士二人を守りつつ、ここを突破するには戦える人材が少な過ぎる。とアサヒは下唇を噛み締めた。


「あかんなコレ……英雄、どれぐらい戦えるんや?」

「……ぁ」


 アサヒの問いに葛葉は自分の目を見つめて声を漏らした。その声に意味にアサヒが葛葉へ振り向いた。


「…………え? なんやその『あ』って」

「いえ、大丈夫ですっ。て、手が謎の力に目覚めましたから……」


 ガクガクとほぼ機械のように震えている葛葉の手を見て、アサヒは顔を真っ青にした。


「手が使いもんになっとらんやんけ!」


 と謎の力ではなく、長期戦の疲れに壊れてしまった手にツッコミを入れてしまった。

 直後、そんな場合じゃないと気を取り直し、刀を構えた。


「実質、戦えるのワイだけか……!」

「私も戦います!」

「そないな手で出来るかい。アサギ、今から道作たる。そっからそいつ担いで逃げろ」


 彼我の戦力差からアサヒは最善の手を打つ。

 背後に居る兵士に負傷兵を任せ、道を作り逃す一手。


「英雄は、アサギのこと護衛してれ」

「……それは」

「すまんがこれしかあらへんわ。それともなんや? 覚醒でもしてれるんか、英雄?」


 護衛に僅かばかりか戦える葛葉をつかせることで、生存率も上げる作戦だ。

 ただ欠点として、道を作る者はこの場に残らなければならないと言う点だ。


「はよ行け」

「副隊長……!」

「はよ行け‼︎」


 アサヒの決断に兵士は尻込みしてしまう。だがアサヒはあえてキツい言葉で、態度で言うことで逃げさせようとした。

 だが兵士は逃げなかった。


「……命令や」

「副隊長! あなたも一緒に‼︎」

「無理や、はよ行け。これは命令やぞ‼︎」


 命令に素直に従わない部下に苛立ちを感じる。なんてことはなく、アサヒは唇から血が出るほどに噛み締めていた。

 自分も死ぬのは嫌なのだ。でも、それでもアサヒは、自分よりも部下の命を優先した。


「副隊ちょ―――っ……」


 アサヒは乱暴に兵士を気絶させた。

 そしてその光景を黙って見ていた葛葉へ振り向き、頭を下げた。そして、


「後生や、こいつらのこと頼む……」

「―――頼まれなくても、絶対に死なせません。……だからアサヒさんも」

「フッ。道作ったる、はよ行け」


 アサヒの頼みに葛葉は即答えを返した。

 微笑し、アサヒは抜刀し刀を構えた。眼前の魔獣の壁に向かって。


「行くで‼︎」


 兵士二人を担いだ葛葉を見てから、アサヒは魔獣達に斬り掛かった。

 一太刀で十数の魔獣が死に亡骸が倒れ伏し道が生まれた。更に追撃をし、道を広げる。

 既に数十の魔獣の死体が地面に伏していた。

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