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五十二話 私を

「―――っ」


 地面にぶつかると同時に、葛葉は意識を取り戻した。意識がハッキリとしまず目に入って来たのは、空が土煙で覆い隠されていたことだった。

 何が起きたのか、葛葉はすぐに思い出した。


「……あぁ」


 目の前で起きたこと。

 それは『八岐大蛇』の自爆だ。

 そして爆発で気を失っていた間に思い出していた過去の情景、そしてその会話の内容に笑みが溢れた。


「助けれる……ううん、助けたい。……あの顔が本心なんだろうから」


 『八岐大蛇』が何を望んでいるのか、助けてもらいたいのかどうか分からなかった葛葉だったが、爆発する瞬間の際に見た『八岐大蛇』の顔。

 そのおかげで、葛葉は『八岐大蛇』の本当を知れた。


「……っ、うわぁ……ボロボロ」


 服を見ればボロボロだったのがさらにボロボロになっていた。

 その下には無数の傷や、見るに堪えない傷などもあった。傷ならば幾らでも治せる、葛葉は『想像』を使った。

 ズキッと頭痛がやってくるが、葛葉は構わずに全身の傷を治したのだった。

 ナイフも残り一本のみ、『創造』も次は絶対にない。

 勝ち目はゼロに等しい、賭けれるものは()のみ。


「それって……」


 ナイフを逆手に持ち直し葛葉は息を深く吸った。

 そして今の状況、自分のすべきこと。それら全てが葛葉をそれにさせてくれることに笑みを浮かべた。


「格好のいい英雄じゃん!」


 葛葉は駆け出した。


 ―――これは『八岐大蛇』(怪物)を倒す英雄(ヒーロー)の物語ではなく。

 これは『八岐大蛇』(少女)を救う英雄(ヒーロー)の物語だからだ―――。




『―――死に切れなかった……』


 地面に手を付き下唇を噛み締めながら涙を流す『八岐大蛇』。自爆魔法は失敗に終わったのだ。

 残ったのは瀕死と変わらないダメージと、自分を殺してくれそうな相手を失ったことの寂寥感だけだった。


『誰か……お願いだから……』

「―――助けてって‼︎」


 『八岐大蛇』の悲痛な声を遮って大きな声を放ったのは、ボロボロの葛葉だった。


「それが……君の願い……違う?」

『……っ』


 葛葉の言葉に『八岐大蛇』は唖然とした。

 一番驚いたのはあの攻撃を喰らって生きていることだった。そしてその次が自身の願いを察したことだった。


「違うなんて言わせない、殺してなんて言わせない……言わせたくない。だから助けてって、言ってもらいたい。君のあの顔を見たから……」

『……』


 押し付けがましいかも知れないと葛藤がありつつも、だがあの顔が嘘とは思えない葛葉は言葉を続けた。


「君は……どうしたい……?」


 静かだがどこか怒っているような問い掛け。

 『八岐大蛇(少女)』は無機質だった顔に光を灯し、虚だった目から涙を流して訴えた。


殺して(私を助けて)―――ッ‼︎』


 葛葉は歯を食いしばりながら駆け出した。表面上は助けてと言葉にしたが、その真なる願いは自身の破滅だから。


『もう、身体が言うことを聞かないの……‼︎』


 少女の意思は既に挫けている、だが身体は少女を死なせないよう抗った。影の数が更に増し、強度も上がって襲い掛かってくる。葛葉の進行を阻もうと必死に。

 影が肩に噛み付く、脚に腕に腹に……。


「私が絶対‼︎」


 少女の影が膨れ上がった。

 その影の姿はまるで邪竜『八岐大蛇』のようだった。

 影が咆哮すると地響きが起き葛葉は立っていられなくなってしまう。

 間違いなく姿形もあの怪物だった。


「……助けるんだッ‼︎」


 影が攻撃をけしかけてくる。地面が断割し足場が粉々に割れる。尻尾の攻撃は風圧だけでも肉が抉れそうになる程だ。

 何もかもが規格外。


「づッ‼︎」


 腕で風圧を防ごうと顔を覆ったと同時に腕が飛んだ。

 飛んできた石が肉も骨も貫き千切れ飛んだのだ。


「ぐっ」


 飛来する石が散弾の如く葛葉の腹に穴を開けた。

 一瞬で傷だらけになった葛葉はドサっと地面に倒れ伏した。そして数瞬してむくりと起き上がりまた走り出す。


(痛い……痛い……‼︎)


 そんな気持ちを押し殺して、葛葉は突き進んだ。

 気が付けば葛葉は土煙の中から飛び出していた。もっとも、土煙なぞ風圧によって大部分が散らされていたが。

 だが葛葉と少女の戦いを見ていたギャラリーからすれば、煙幕の中で起きていた戦いがやっと見えるようになるのだ。


「……っ。律! 五十鈴‼︎」


 葛葉は二人を尻目に視認して、ただ名前を叫んだ。

 二人は葛葉の声を聞くと同時に駆け出した。


「鬼丸も‼︎」

「―――くはは、冗談キツいのじゃよ、わしの伴侶は……。じゃが、相分かったッ‼︎」


 葛葉は木に背中を預けて身体を休めていた鬼丸の名前も叫んだ。罪悪感はあるが今は直ぐに連携できる三人が必要なのだった。


(あと少し、あと少しで届くんだ―――ッ‼︎)


 影の『八岐大蛇』の攻撃をいなし攻撃を弾く。葛葉のナイフはあと少しで少女の心臓に届くのだ。

 だが影の『八岐大蛇』はそれを許さない。葛葉の身体を影で覆うと、葛葉の身体に無数の痛々しい傷を刻んだ。

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