四十九話 英雄の戦い
超絶ギリギリセーフ、ですよね!?
五十鈴が影の龍の懐に潜り込み攻撃を受け止めたその隙に、律が刀で龍の顎から尻尾までを切り裂いた。
ズシンと最後の龍が地面に伏し辺り一帯の制圧が終わった。
「葛葉さん……」
律は激しい戦いが起きている場所を見やった。影が膨れ上がり無数の龍が葛葉へ襲い掛かる。
葛葉はそれらをナイフで切り裂き影を消滅させる。『創造』が使えなくとも葛葉は『八岐大蛇』を相手に善戦していたのだ。
無数の影の龍達が通っていった地面は抉られる。
喰らえば一溜まりもない攻撃なのは目に見えている。なのに葛葉はギリギリで回避するので顔の直ぐ真横を通る影。
ピリピリと肌が痛むが葛葉は進むのをやめなかった。
「加勢、したいですね」
「……はい」
律と五十鈴は共にその戦いを見ることしかできない。あの戦いに加勢し、葛葉と同様に善戦出来る人物は限られている。
その限られた人物達の中に二人は入っていない。
「―――ウチも入ろかー思たんやけど……、あの戦い見たら、無理や〜て、思たわ」
納刀しながら一は二人の隣に並び立った。
「Lv.6でもですか?」
「せやね。……あれはウチらの次元には居らんのやろね」
三人が見守っている背中はまさしく【英雄】だ。
「かっこいいです」
「ウチもそう思うわ〜。……んーちゃうな、皆んなもそう思とるよ」
一が目をやる方向にはゾロゾロと傷だらけの冒険者や、兵士たちが歩いて来ていた。
肩を貸し合ったり、傷を押さえていたり、辛かった戦いに一息吐いたりと。
「あれが英雄殿の誠の姿ですか」
傷だらけのミハヤも葛葉の戦闘に感嘆の息を吐いた。
「何人も、自分より大っきくて強い奴に立ち向かう者はカッコよく映るもんよ」
緋色の軌跡が宙に描かれる。影が地面を爆砕させても、影が無数になり捕まえてこようとして来ても。
緋色の軌跡は前へ進んだ。
「思い出すな。先代英雄を」
「せやなぁ〜。けど言うても、似とらんで〜? あの子はあの子やって」
「あぁ……そうだな」
二人は視線すら交差させず語り合う。
五年前に現れ、数々の偉業を成し遂げた英雄のことを。律や五十鈴も僅かに知っている。
ただそれは伝聞でだ。戦いは見ていないのだ。
「それでも、重なりますね。……先代英雄が」
葛葉の戦う背中を見つつ律は思ったことを口にした。伝聞で聞いた戦いと似てる気がしたのだ。
絶え間なく降り注ぐ攻撃を避け離れてしまった『八岐大蛇』との間を埋め、近接戦に持ち込もうとナイフや脚を使う攻撃を葛葉はけしかけた。
「先代の英雄様の戦い方はどうだったんですか?」
「ん〜? せやなぁ〜、先代英雄は荒っぽかったかな〜。片手剣をよく使っとったよ。んで猪突猛進みたく敵に突撃しにいって、首を持ち帰る〜て感じやで」
予想よりも蛮族っぽい戦い方に律は、えッと開いた口が塞がらなくなるのだった。
ブォンそんな音が頭上で鳴って、前傾姿勢の葛葉は顔を強張らせた。
(ひぃぃぃ、怖いぃ‼︎ いつか死んじゃう‼︎)
激しい戦いの中、葛葉の思っていることはこれ以外ないのだらった。
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