四十六話 勝鬨を上げよ
「今此処に、我は再現せん。『八艘飛び―――ッ‼︎』」
地面を蹴り砕き空へ跳躍した鬼丸は、肩に担いだ金棒を構え、そして空気を蹴った。それは遠目で見たらソニックウェーブにも見えたろう。
猛スピードで飛ぶ鬼丸が金棒を振るうと、通った後の空では龍たちが木っ端微塵となった。
空中を自由自在に飛び回り金棒を振るっては龍を倒して行く。
単純そうに見えるそれは、とても体力の消費と魔力の消費が激しかった。
(これで何体目じゃ……⁉︎)
地面は真っ赤に染まっておりゴロゴロと肉塊が転がっているという地獄絵図。
それでもまだ空には数え切れないほどの龍が居た。
広範囲な上生きている者全てを滅殺する魔法が故に千以上は確実にいるのだ。とそう考えては戦意が折れそうなので、鬼丸はただ機械のように龍を破壊して周った。
「―――ッ‼︎ ……か、はッ」
そして暫くして空気を蹴ろうとした時だった、全身に激痛が走り鬼丸は地面へ落ちた。
ドンッと背中から落ち土煙が舞った。
身体は無事だが魔力の使い過ぎと長時間の鬼化により、身体の内側から異変が起き始めたのだ。
「クッ、ハハハ。時間切れかのう……?」
まだまだ残っていたはずの龍を思い浮かべ、空へ手を伸ばした鬼丸は、諦めたような声で笑った。
鬼化が解け始め全身から力が抜けていく。そして鬼丸はピクリとも動かなくなってしまった。
「……とことんつまらん奴よのう」
鬼丸は、鬼丸を見下してくる『八岐大蛇』を見てムッと眉を寄せながら呟いた。
だが『八岐大蛇』は気にも止めずに、人の手だった手を竜の前足に変え、巨大で鋭利な爪を鬼丸へと向け振り上げた。そして『八岐大蛇』は無表情のまま鬼丸に振り下ろす、だがガキンッと音が立ち、その爪は鬼丸を裂くことはなかった。
「———鬼丸様、ここからですっ‼︎」
『八岐大蛇』の攻撃を盾で受け止める五十鈴が鬼丸にそう声を掛けた。
それと同時に大地に声を轟かせ無数の兵士、冒険者が駆け出していた。
どう考えても重傷で包帯を巻いている者、疲労困憊でぶっ倒れそうな者。と色んな兵士や冒険者達が歯を食いしばって駆けていた。
彼らは空から舞い降りてくる龍達に立ち向かう。全ての人々を殺すための龍だったが、鬼丸が数を減らしたおかげか、一匹に五人で戦えるほどに優位に立ち回れた。
「仰向けじゃが……大体想像はつくのう」
「鬼丸様はお休み下さい。あとは私たちが」
「……相分かった。して、わしはどう休むのじゃ? まさか戦さ場で放置じゃなかろうな?」
仰向けで空しか見えないが耳へと届く怒号のような声に状況を理解した鬼丸は五十鈴の言葉に深く頷いた。
そして冗談めかしたことを言う鬼丸の肩が誰かに掴まれるのだった。
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