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四十四話 残していく者たち

「おーっと。……心配すんなー? 俺ぁ……平、気さ」

「……っ。そんなわけ、ないじゃないですかっ……!」


 葛葉の顔を見たイサオがまたしても軽口を言うが、傷の程度はそうは言っていない、故に葛葉には通用しない。

 スミノの手の上から葛葉も手を置き、イサオの傷口を抑えるが、葛葉は不可解な感覚に息を呑んだ。


「……スミノさん!」

「っ…………気を確かにしておいて下さい」


 スミノは気乗りしないのか間を開けてから重い口を開き、葛葉へ釘を刺しといた。

 その理由はすぐに判明した。

 ぺらっと被せられていた布をスミノが捲ると、そこにはぽっかりと穴が空いたイサオの腹があった。


「……なに、これ」


 下手すれば小さいゴミ箱が易々と入りそうな幅だった。これを見て誰一人平常心を保てるものは居ない、居ないと願いたいほどに。

 それよりここまでの傷を負っていて未だ命を繋ぎ止めれている方が驚きだった。


「これは、律様を守るために……」

「律を……?」 


 怪我の経緯を少しだけ話すスミノに葛葉は顔を近づけた。


「俺ぁ、見過ご……せなかっ、たんだ。……嬢ちゃん、らみたいな……ガキがよぉ、死ぬ、なんざなぁ……」


 ほんの少し言葉を交わした葛葉ならまだしも、言葉すら、顔すらも合わせてない律を助けるために命を掛けたのだ、イサオは。

 それはとてもかっこいいと思う反面、とても愚かなことだと葛葉は思った。

 そして以前のイサオの会話を思い出し、拳が震え始め自分で自分を押さえつけれなくなった葛葉は、イサオへ怒鳴るように思いを口にした。


「だからって……! あなたにはっ‼︎ 大切なか―――」


 そんな時だった。


「―――イサオ‼︎」


 葛葉の言葉を遮ってイサオを呼ぶ声が横からしたのだ。その声の方へ葛葉は顔を弾かれたように向けた。

 そこには前に会った、魔法使いのミヅキとその後ろには神官らしき女性、その隣には片手剣を持った冒険者が居た。


「バカッ‼︎ あんた何やってんのよっ⁉︎」

「おい! リーダー‼︎」

「……イサオさん‼︎」


 三人は大怪我をしているイサオを見るなり駆け出した。それぞれがイサオを呼んだおかげか、彼の命をさらに繋ぎ止めた。


「悪ぃ……な。……でもよぉ、俺は……そう言う、奴なんだ」


 弱々しくなった声で、プルプルと震える手を伸ばし、イサオは三人へとにかく謝った。

 それを三人は聞き逃さず、うんうんと何度も深く首を頷いた。


「ミヅキ……頼、む」

「っ! ふざけないで‼︎ そんなことを言いに行くんじゃないの‼︎ 帰ってきたよって、ただいまって、そう言って……。おかえりって言って貰うために‼︎ 死んじゃ、駄目なんだからぁ……‼︎」

「頼むよ……。家族、二人……を、よろしく頼む……。俺ぁ、お前の……こと…………信じ……………て、る」


 バタッと腕が地面に落ちる。瞳から生気が抜け全身から力が抜けた。

 人がただの肉になったのだ。

 誰もが言葉を失った。沈黙がこの場を支配していた。

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