三十八話 助ける理由
『―――助けて』
声。声が聞こえてる。
手を伸ばし、目の前の光景を見た。それは激戦だった。夜空のような黒髪が靡き、剣を振るうと束で掛かっていた魔獣が蒸発するように灰粉となって飛んでいく。
剣を握っているのはとてもとても美しい女性だった。
魔法の使える魔獣が前に出てきては、宙空に突如出現した火の矢を飛ばした。
だが女性は魔法のそれを手で払い除け駆け出す。一瞬で距離を詰め、魔法を使った魔獣を剣で串刺しにして、胴を真っ二つに斬り開いた。
そして女性が顔を上げると、そこには女性を見下ろす巨大な竜がいた。もちろん『八岐大蛇』だ。
女性はほんの数瞬、『八岐大蛇』と睨み合い、次の瞬間には光となって『八岐大蛇』の魔石がある、心臓部を持っていた剣で刺していた。
「……分身体?」
『助けて……』
「っ、言葉を……?」
魔石を貫いたはずが剣から伝わってくるのは何もない、まるで中が空洞の何かを刺したという感覚のみだった。まるで豆腐を刺したかのような。
『助けて』
「? どうして?」
『助けて』
「なんで?」
『助けて』
一昔前のゲームのNPCのように同じことしか言わない『八岐大蛇』に、女性は小首を傾げた。
どうして助けて欲しいのか、なにから助けて欲しいのか。だが、女性は一瞬悩んでから口を開いた。
「いいよ、助けを求めてる。それだけで十分。それだけで【英雄】は助けに来るんだよ」
葛葉には靄がかかって顔がわからないが、だが女性は確かに微笑んでいた―――。
徐々に再生されていく『八岐大蛇』の首に、鬼丸は多少なりとも焦りを感じていた。
巨大化していたヘレンも今は治療に専念しており、アーシャの魔法も魔力の枯渇で維持するのもやっとだった。
東兵士たちは激しい戦いのせいか重傷者が増え、その負傷者を戦闘から離脱させ治療せねばならず、戦える人間が数を減らしていくのだった。
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