三十四話 先祖代々、護国の為の魔法
「……来た。―――ッ‼︎」
ギルド東支部の中でも一番高い部屋で、グッと身構えていたサワは遠くで煌めいたそれを視認して更に身構えた、その時だった。
身体が仰け反りそうな衝撃がサワを襲った。その衝撃はサワ一人のみだった。
「サワ、いつでもよろしいです!」
「……ふっ、まだ持ち堪えてみせんしょう。わっちはこれでもギルド長でありんすえ、負けてられないでありんすから!」
後ろで待機している巫女に強がって見せるサワだったが、結界は今にも崩れそうであった。
ギルド長でありながら戦闘能力は皆無、戦略や頭脳に長けているわけでも無い。そんなサワの数少ない見せ場、全ギルド長の中で結界魔法の腕だけは最高峰だった。
かの魔女、葉加瀬にだって勝って見せたのだから。
「ギルド長! これ以上はっ‼︎」
目から、鼻から、口から血が溢れ出す。それを見た部下の職員が血相を変えて声を掛けるが、サワはそれを無視する。
例えここで結界魔法を解いたとしても、勢いは衰えて居ない光線に一瞬にして全員が消し炭にされてしまう。
いくら巫女といえども、イズモは鬼丸とは違うのだ。
「わっちは、まだまだ‼︎ 更に詠唱をしてくりゃれ‼︎」
「っ⁉︎ そ、そんな!」
「早くっ‼︎」
サワが声を荒げイズモに告げたこと、それは詠唱の延長だった。詠唱の延長、それは魔法や妖術など詠唱が必要なもので行われることだ。
だが決して詠唱の延長は滅多に行われない。
魔法や妖術の威力や確実性は上がるが、緊急時にできることではないのだ。
「……っ」
だがサワの強い要望にイズモは答えるのだった。
「―――悠久の時、其は栄華と安寧を謳歌せし帝国。しかし今破滅の時なりて、命運の全ては今日の戦いに賭かっている」
それは詠唱と言うにはあまりにも今のこと過ぎた。
「戦場に戦ぐ、遍く戦士たちよ、立ち上がり剣を取れ。戦場に舞い降りし神の使いよ今こそ、その力を解き放とう。―――戦場に遍く兵士達よ、今問いかけよう。自らの命を顧みないと言う覚悟を。其は護国す。余は今ここに全てを拒絶し跳ね返す絶対の障壁を顕現す。其は弱者による会心の一撃。『一矢報いる弱者の咆哮』」
その詠唱が完了するのと同時、サワの結界が無情にもバラバラに砕け散った。
だがイズモの魔法はその砕け散った結界の魔力を取り込み、迫り来る光線すらも取り込むのだった―――。
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