十一話 愛娘奪還作戦!
唐突な展開ですねー。
「――早くしろっ‼︎ 荷物なんて持ってける訳ないだろ⁉︎」
「あ、あぁ! 分かったよ!」
武器を持った里を守る兵士が、家の中にある家具やら何やらを持って逃げようとしてる男に怒鳴る。辺りは里の住人が避難指示に従い、一時的に近くの街であるオリアへ避難する用意をしていた。
「ママー帰れるのー?」
「大丈夫よ! すぐに帰えってこれるから」
幼い子供が母親に問いかけ、母親は安心させようと子供を優しい口調で諭す。
そんな親子の姿を見ていた兵士達は何処かの悔しそうな顔をしていた。自分の力不足を恨むかのように。
「澪、今が好機だ」
里の住人が皆避難している場所と少し離れた所、人組の男女が話し込んでいた。
「……でも」
「それじゃあどうするんだ!? 五十鈴を助けたくないのか!?」
言い淀む五十鈴の母――澪に、五十鈴の父は声を大にして言う。五十鈴の父――和は澪の手を握る。
「……そんなことは言ってないわよ! でも、こんなみんなを裏切るような……」
「――主人。準備はできました」
「――っ! 本当か!?」
突如、二人の元に現れたのは族長に仕えるメイドの南だった。南は族長とは内緒に二人と内通しており、この二人がいつ五十鈴を助け出すかの作戦立案をしていた。
元々は五十鈴の近所の友人だったが、五十鈴が巫女の贄になると知り十二の時に二人と話し合い、族長の館で仕えるメイドとなった。
「ごめんな、南ちゃん」
「いえ、私はただ……友人を、五十鈴ちゃんを助けたいだけですから」
「……あぁ、必ず助けよう。待ってろ、五十鈴!」
里を一望出来る丘の上の館を睨むように睨み付け、和は拳を上げ高らかに宣言した。
「もぬけの殻だ……」
「無理もないでしょう。魔王軍幹部が攻めてきてるのですから」
人の気配を感じさせない館の中を行く三人は、周囲を警戒しながら南が知っていると言う、五十鈴の部屋へと向かう。
その道中、澪がふとつぶやく。
「お義父さんは大丈夫なんで……」
「――あいつの心配なんか‼︎」
「……」
壁に拳を叩きつけ、憤る和に澪が謝る。険悪なムードの中、五十鈴探しを続ける。
二人は仲が悪い訳ではない。というか良すぎる。結婚したのに未だバカップルと呼ばれる事もあるのだから。
「そこを右です。そして真っ直ぐ」
「わ、分かった」
最後尾に居る南は、接敵した時にいつでも攻撃出来るように左右両方の腿にあるナイフとクナイにらそっと手を置く。
和が南に言われた通り廊下の突き当たりを右に曲がり、真っ直ぐに走ろうとする。南がそれを見て、
「――あ、ご主人!」
「え? どうかしっ――⁉︎」
呼び止めようとしたが、一秒遅かった。
ガコンと音が鳴り、和の足下の床が凹み何かが作動し、そして和の立っている床が消えた。
「え? えぇぇええええええええ⁉︎」
和は終始はてな状態で、声を上げながら落ちていってしまった。
南と澪が穴の中を覗き込み、
「あなたー! 大丈夫〜?」
「ご主じーん!」
和の安否を確認にしようと声を掛けるが……何も返ってこず、ただ二人の声が反響し合うのみ。どうやら筒状の滑り台見たくなっているらしい。
「……ねぇ南ちゃん。ここって忍者屋敷なの?」
「いえ、族長の館ですね」
元の床に戻り、二人が和の返事を待つのを辞め、立ち上がると澪がごもっともな質問をした。だが南はそれを否定する。そう、ここはただの族長の館なのだから、決して忍者屋敷な訳は……。
「……そう言えば、玄武様はこう言うのが休日のに趣味だとか」
「あの人って武人なのか芸人なのか分からないわね」
「ですねー」
二人はそう言い合い、和のことなんてすっかり忘れて、五十鈴を助けに向かうのだった――。
読んで頂き、ありがとうございます!
和と澪は美男美女の仲が良い夫婦です。険悪とかじゃありません。