二十八話 怪物と共に
「……あんなんが」
「巫女ですよ……人の為、誰かの為に、あの力を使っていますから」
一の言葉を遮って葛葉は鬼丸のことを評した。
「でも……っ!」
「私は行きますよ」
「巻き込まれよったら……」
葛葉のナイフを握る腕を引き、一は葛葉のことを引き止めようとした。
だが葛葉はその手を優しく手放した。
「それでも、私は【英雄】で鬼丸の【伴侶】ですから」
呆然と立つ一を置いて葛葉は鬼丸の下へ向かっていった。次第に歩みから走りに変えていった。
葛葉が通っていく道に次々と人の倍以上はある臓物が落ちていく。
「『紅焔凱―――ッ‼︎』」
炎の付与魔法。猛る炎の如く葛葉は走る。飛んでくる臓物を避け、切り裂き、誤解されながらも一人戦う鬼丸の下に。
跳躍しナイフを逆手に持ち替えた。
鬼丸の背後から噛みつこうとする『八岐大蛇』の首にナイフを刺し自重で切り裂いた。
「うっ―――‼︎」
葛葉が着地すると同時にドゴンッと強い衝撃がやったきた。葛葉の左側の肋が粉々に砕け、内臓が破裂し、受け身も取れず倒れた全身擦り傷だらけな葛葉は右肩を脱臼した。
全身の痛みに呻く葛葉が『八岐大蛇』を見ると、ちょうど鬼丸が『八岐大蛇』の尻尾を引き千切っていた。
「がっ……ぁ……」
激痛に涙が溢れ目尻に溜まっていたのが流れ落ちた。
すぐに『想像』を行使し始める。痛みは変わらずただ傷が癒えていく。
破裂した内臓が、砕けた肋が、外れた肩が。次第に癒えていった。そしてボロボロの傷が全快する。
傷が嘘だったかのように何もなくなり、逆に身体が軽くなった。
「……まだ、私は……まだ立てるっ―――‼︎」
『想像』が使える限り何度でも、【英雄】と言う名が何度でも、葛葉自身の意思が何度でも、挫けそうな心を蹴飛ばして立ち上がらせるのだ。
まだ行ける、まだ戦える、と叫び葛葉は起き上がって走り出す。
目の前では『八岐大蛇』の身体が再生と破壊を繰り返されている、付け入る隙は今この一瞬に掛かっているのだ。
「淡き焔よっ! 身を守る灼熱の大気を纏い、敵を焼き尽くす日輪の―――ッ‼︎」
『創造』で手榴弾やダイナマイト、とにかく高威力な爆発物を造り、『八岐大蛇』へと投げ付けた。
何度も響く爆発音、舞い上がる砂埃などは一切気にせずに葛葉は突っ込んだ。そして詠を終わらせる。
「冠をッ‼︎ 『紅焔凱―光冠―』」
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