十八話 激情を今、爆発させて
すみません!遅れてしまいました!
「戦う、ことすらも……」
出来ないのか、そう思った。次の瞬間、ガシャンと言う音がして律は顔を上げた。
視線の先には兵士たちが蹴散らされ、潰され、喰われ、投げ飛ばされる、そんな光景があった。勇気ある者が挑むが、それは一瞬にして挫かれる。
この世の何処を探してもそうそう無い地獄を前にして律は何も出来ない。
「私は……‼︎」
【英雄】の仲間なはずなのに、と律は何度思っただろう。後悔を重ねに重ね、いつもその【英雄】に助けられてきた。
【英雄】が苦悩する時、自分は手を差し伸べれなかった。だが【英雄】は差し伸べてくれた。
憧れの人が出来ることが、なぜ出来ないのか、なぜ模倣することすら出来ないのか。
ボッと律の心の中の何かに火が灯った。
「葛葉さん……」
兵士たちが地面に伏し、骸骨だけが立っている。残るはただ一人、律のみだ。
逃げ惑う人々は一切目もくれず骸骨は律に手を伸ばした。握り潰し噛み殺す、そのために。
何も出来ずに、何も成し遂げれずに律は、死に絶える。それだけは、絶対に―――。
「―――嫌です!」
【英雄】の顔に泥を塗りたく無い、葛葉が誇ってくれるような仲間になりたい。
その気持ちが灯った火に燃料となって注がれる。
そして律は気が付いた。自分の胸元が光っていることに。目を向け、目を凝らして見てみると、光を放つのは十字の首飾りだった。
光が骸骨を押し除ける。
「……っ、なんで……」
光っているのか不思議に思った、その時だった。
『―――悔やむな』
頭の中に流れてくる昔の記憶。
『悔やんでも現実は変わらん、人間最初は何も出来やしねぇよぉ』
それは、昔祖父と共に熱を出した母へ料理を作っていた時の記憶だった。
『悔やんで自分を責めて何になる、失敗は成功のもと、アイツがいっとったわ。……凛楓みたくなりてーなら、先ずは一人で出来るようになってからだ』
幼少の頃の律は母親を尊敬して憧れていた。
上級冒険者までありながら留守が多い父と祖父の代わりに律を育て、毎日笑顔で遊んでくれた母親を。
『憧れている内は何も出来やしねぇ、そうなってんだ世の中。憧れたんなら、そいつを追い越す気で、がむしゃらに努力すりゃあいい。大丈夫だ、お前なら出来る』
その温かい言葉が首飾りの光を強めた。
「憧れてる内は……何もできない……」
律は【英雄】に憧れている。だから助けられてばかりなのか、それとも。
憧れてしまった。だから律は越えなくてはならない。
【英雄】を、【英雄】鬼代葛葉を。
「私だって―――っ‼︎」
律がそう叫ぶと同時、ブチッと首飾りの紐が千切れた。
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早速直したのですが、反映されているか不明ですが多分大丈夫です。自分でも確認したので、それでも治っていなかった場合は遠慮なく誤字報告をお願いします!
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