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十七話 何も出来ない


 ――四十分前――


 大きな振動によって律は目を覚ました。

 パッと瞼を開けると、いの一番に入って来たのは逃げ惑う魔術師と、剣を盾を構え奮戦する少数の東軍兵士だった。

 そしてその兵士たちが相手にするのは、皮膚どころか肉すら無い、律の身長の何倍もある骸骨だった。なぜ動けているのか、そんなことを考えるよりも律の脳は、恐怖に埋め尽くされてしまった。


「―――いやぁ‼︎ 助けてっ!」


 受け入れ難い現実を受け入れた瞬間、耳に飛び込んできたのは女性の苦しそうな悲鳴だった。

 目を凝らし律は骸骨を見やると、骸骨の手。握り締められている治癒師の女性を見つけた。


「不味い! 手遅れになるぞ‼︎ 早くしろォ‼︎」

「今やってるッ‼︎ つ……けどっ! こいつの骨が硬すぎるんだ‼︎」


 ガキンという音を鳴らしながら、兵士の振り翳した刀は明後日の方向に弾かれてしまった。

 硬すぎる骨に、大き過ぎる体躯。女性を握る手を直で攻撃しようにも刀では届かず、弓を使えば女性に当たってしまうものしれないという、その二択が救助を遅らせていた。


「……ぁ。いや! いやいや! し、死にたく無い! 死にたく無いッ‼︎」


 骸骨が手を剥き出しの歯へと近付けると女性が死を悟り暴れ始めた。手を何度も叩き、骸骨の歯を顎を何度も蹴り付けた。それでも、骸骨の手は止まらない。

 女性の死はゆっくりと近付いてくる。


「いやだっ! やだやだ‼︎ 誰か助けて! だ、誰かッ‼︎ し、死に……ぁ、お、お母さんっ‼︎ た、助けて! し、死にたく無い! 死にたく無い‼︎」


 滂沱の涙を流し懇願する女性だが骸骨に人の心などあるはずがなく、避けられない現実が遂にやってきてしまった。


「いやっ、死にたく……無いっ‼︎ 誰か助け―――」


 女性が最後に兵士たちに手を伸ばして助けを求めた時だった、骸骨の歯がギロチンのように女性の首を噛み潰した。そしてギギギと悲鳴をあげる女性の首を、構わずに力を更に入れて引きちぎった。

 皮膚が破け肉が破断し背骨が砕け散る。血が溢れ女性の身体がビクンビクンと跳ねた。


「……」


 その光景を目の当たりにする、律を含めたこの場にいる人々は誰一人として動けず、ただ女性が無慈悲に食い殺されるのを、真っ青な顔で見るだけだった。

 一人が吐き、一人が悲鳴を上げ、恐怖に駆られた人々は次々と逃げ出した。骸骨の近くにいる兵士たちは、戦意を失い、ただ呆然と立っているだけだった。

 逃げ惑う人々に、骸骨の周りに潜伏していた他の魔獣と魔物が襲い掛かる。

 一瞬にして救護所は地獄へと様変わりした。


「……う、そ」


 目の前の光景が受け入れられず目覚めたばかりの律はただボソボソと単語を呟くだけだった。


「……っ。違う! 私は、見てるだけじゃ……」


 と律は立ち上がった。

 見てるだけしかできなかった自分の身体を叩き、痛む身体に鞭を打ち。


(きっと、葛葉さんなら、立ち向かった! 助けようと足掻くに決まってる‼︎ それなのに私は……!)


 尊敬する【英雄】ならばと律はいつも悔やんだ。

 隣に置いてあるはずの家宝を手で探すが何処にもあらず、「えっ」と栗は声を漏らすがすぐに思い出した。

 あの場に残ってるのだと、砕けた家宝が。

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