十六話 戦い方は自由に
ギリギリセーフ
「―――凄まじいな」
「はぁ、疲れたぁ」
残る帯状になった影を切り裂きながら、葛葉と鬼丸の連携を見ていたミハヤは感嘆の息を漏らした。
その隣に着地して来たのは一だった。
ずっと足止めを任されていた上に、大技の連発でスタミナも魔力も枯渇気味だった。
「葛葉ちゃん……えらい強うなっとんなぁ」
「一殿はたしか、彼女と会ってすぐに……」
「せやなぁ、すぐにここに派遣されたんよ〜」
「英雄殿は、会ったばかりの頃はどんな人物だったんですか?」
ゴクゴクと魔力回復液を一気に飲み干した一に、ミハヤは葛葉を眺めつつ尋ねた。
ミハヤには年端も行かぬ少女にしか映っていなかった。だが実際は違った、現実は目の前の光景だった。
「会った頃やんなぁ。う〜ん、あん頃はえらい可愛かったわぁ〜。この世界に来てすぐやったからなぁ」
と一が初々しかった葛葉を思い出し感慨に耽った。
美しさ、美少女さは今も健在だが。
「誰かが面倒見やんと、あっさり死にそうやったからなぁ。んまウチは面倒見れなかったけどなぁ」
主に見ていたのは緋月だ。
「今は、なんやろなぁ。……んー、戦い方がエッグいんよなぁ……」
ふと目を向けると、鬼丸が『八岐大蛇』の攻撃を華麗に躱わしたり防いだりするのとは正反対に、避けられない攻撃を受け止め大怪我を恐れずに戦う姿は、鬼丸よりも狂戦士だった。
怪我を負っても忽ちに怪我は治ってしまうのだ。
「スキル頼りになり過ぎてるんよね〜」
「……えぇ、それは、確かに危ういですね」
葛葉の強力なスキルは、強力過ぎるが故にいつか足下をすくわれるかもしれない。一はそれが不安だったのだ。
「よし、行こか」
頭を振って頭の中を一度綺麗にした。
今やるべき事は不安を感じていることではなく、『八岐大蛇』を一刻も早く討つことだ。
「せやけど、こんな調子やと間に合いそうにないんちゃう?」
『八岐大蛇』を決して街に到達させない。それが最低限の目標だった。移動速度が遅いため、距離はそこまで縮まっていないが、多少なりとも縮まっているのは事実。
一時間半戦い続けているため、休息は必須だが、その場合足止めする者が居なくなるのだ。休息できない、早く倒さねばならない、そんな板挟みで、あったとしても。
「それでもですよ。一殿、負け戦のために我々が何百年もこの日を待ったと思いますか?」
「思わんなぁ」
「今日ここで終わらせる、その気概だけあれば十ニ分。我々は玉砕覚悟なのですから」
「ウチも生半可な気持ちでは戦わんよ? やるからには本気やろ」
すっかり覚悟の決まっている二人は、殺気に満ち満ちた目で『八岐大蛇』を見た。
自前の武器を構え、二人は葛葉と鬼丸と共に、『八岐大蛇』へ苦しい戦いを挑むのだった―――。
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