四話 厳しい戦い
数秒ほどの沈黙の後、水晶から葉加瀬の声が聞こえてきた。
『これは私と緋月、それと王国政府の話し合いの結果出た憶測なのだがね。……今日は、満月の夜だろう?』
「えぇ、そうでありんすね」
空に浮かぶ満月を見れば誰がどう見ても今夜は満月の夜だ。サワが相槌をすると葉加瀬は話を再開させた。
『憶測が正しければ、邪竜などの特定の魔獣は満月の夜に、ステータスを向上させる。そして、満月の夜が訪れるのは今日だ』
「……じゃ、じゃあ」
『君が私に送ってくれた、偵察時の資料に載っている能力や姿とは全くもって違うだろうね。通常ならばLvは10と言ったところだったろう。……けど、今は最高でも……13くらいにはなってるかな』
「―――13ッ⁉︎」
葉加瀬の言葉を聞いていたサワが今までに無いほど驚いた。英雄が死んだ時ほどに。
13、これは前【英雄】を殺した『星を眺める者』と同等のレベルだった。
『戦況はどうなっている?』
「……っ。冒険者が約200、帝国兵が5000でありんした。けれど、既に800人が死にんした……」
『ふむ。そうだね、その数じゃ、『八岐大蛇』は絶対に倒せないね』
葉加瀬の言葉にその場の全員が息を呑んだ―――。
「づ―――ッ‼︎」
尻尾の重い攻撃に弾かれ葛葉の身体は高速で地面に叩き付けられた。
全身の骨が粉々になったのかと思うほどの激痛に立とうとしても立てず、手足も言うことを聞かない。
「葛葉っ! 無事かっ⁉︎」
地面に横たわり起きようとしている葛葉の元に駆け付けて来た鬼丸が、葛葉の身体を優しく抱き起こした。
葛葉は激痛に顔を歪めるが、痩せ我慢をして鬼丸の顔を見やった。
「ぶ、無事……よ、余裕だよ……」
「っ、無茶を言うで無い! ……『想像』で治すのじゃな?」
「……そう、しないと、戦え……ないよ……!」
重傷を負っても葛葉の覚悟は折れず、闘志に溢れていた。そんな葛葉のことを見た鬼丸は、下唇を噛み締めた後、葛葉の身体を優しく地面に寝かせて立ち上がった。
「ゆっくり治すのじゃ。それまで、わし等が奴を叩くっ!」
鬼丸は金棒を持ち上げ『八岐大蛇』に向かって駆け出していった。
そんな鬼丸の背中を見送りながら、葛葉はその先にいる巨大な魔獣を見た。ズズズと僅かに移動をする『八岐大蛇』。
戦い続けていて気が付かなかったが、かなり『八岐大蛇』は移動していた。
「……律達、大丈夫かなぁ」
仰向けに寝転がされてた葛葉は空を仰ぎ、今も魔獣と戦っている律と五十鈴の安否に思いを馳せるのだった。
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