三話 士気も落ちるし、キセルも落ちる
だいぶ遅れてすみません!
ドタバタと駆け回るギルド職員、避難指示誘導に出向いていない少数のその職員達は、空の異常現象と、現場の情報収集に手一杯となっていた。
キセルを片手にギルドの廊下を歩くサワに、息を切らした一人の職員が声を掛けた。
「ほ、報告‼︎ ミハヤ隊長から報告です!」
「……何事でありんすか?」
空の異常現象や、不穏な鳴き声に、とても良い報告ではないことは容易に察せていた。
「邪竜『八岐大蛇』は予測通りに目覚めたそうですが、姿も能力も、言い伝えられていた『八岐大蛇』とは大きく異なるとのことです。更に、すでに800人が……戦死しました……‼︎」
いつも飄々としている顔が驚き隠せない、そんな表現へと変わっていった。
手に持っていたキセルが床に落ち、カランカランと音を鳴らしタバコ葉が散らばった。
「800……っ⁉︎ ……もうそんなに」
サワの驚きは『八岐大蛇』よりも、戦死者の数に引っ張られていた。
伝説など、過去の人間が見たものを言い伝えてきただけのものに過ぎない。
「……逆を言うと、そんなものをアテにしていたのでありんすね」
はぁとため息を吐き、サワはキセルを拾った。
謝罪をしてタバコ葉の片付けを報告をしにきた職員に頼み、報告を巫女へ伝えに行こうとした時だった。
「ギルド長! オリアギルド支部長から水晶通話がっ!」
「……は?」
顔を真っ青にして手に大きな、淡く光る水晶を持った職員が息を切らしながらサワに声を掛けた。
サワの表情も少しだけ歪み、嫌な顔をしながら、その淡く光る水晶に近づいた。
「……わっちでありんす。……葉加瀬でありんすか? いや、葉加瀬であって欲しいでありんす」
『ボクだよ!』
願っていた人物とは違う声が返ってきたことに、眉尻を下げて息を吐いた。
「最悪でありんす……」
『はぁ、そんなことより、葛葉ちゃんは大丈夫なんだろうね?』
水晶越しにも伝わってくる緋月の圧に、息を呑むギルド職員とサワ。緋月が新たな英雄を溺愛しているのは、この場にいる者全てが承知していた。
「……死んだ。という報告は上がってきてないでありんすえ、安心しなんし。けれど、死ぬ可能性がゼロではないでありんすえ、そんなに感情的にならん方がよろしくては?」
感情的過ぎる緋月を宥めつつ現実的な目線でサワは言うが、水晶の向こうからは落胆した様なため息が聞こえてきた。
ため息を吐きたいのはこっちだと苦笑したサワが、緋月に声を掛けようとすると、
『―――私だ聞こえているかな?』
「ん? 葉加瀬でありんすえ?」
水晶から聞こえてきたその声に困惑した。
緋月の愚痴を聞かされるのだろうと思っていたからだった。
「緋月はどうしたでありんすか?」
『……緋月は、今は少し放っておいた方がいいと思ってね。好きにさせているよ……本人も、そう願っていたからね』
「そんなにでありんすえ……」
緋月本人がここに居なくて良かったと、ホッとするサワだったが直ぐに気を取り直して、葉加瀬に声を掛けた。
「それで何か言いたいことがありんしょう? 言いなんし」
『……』
最初こそ緋月が感情的になり唐突に通話をしてきたのだと思っていたサワだったが、葉加瀬が出てきたことで、緋月の暴走+葉加瀬が何かを言おうとしていると察したのだった。
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