十五話 帰るために
「一本め飲み切ったまでは覚えとるんがなぁ〜」
「なんでそこで辞めなかったんですか」
「なんでやろなぁ〜」
分からんわ、とそう言いあははと笑う一に、五十鈴や律がうわぁとでも言いたげな目を向けるのだった。
すると一は一度背伸びをしてから、座っていた椅子から立ち上がった。そして自分の武器を取り出した。
「葛葉ちゃん達も準備するやで」
言って、アサヒと同じように去って行ってしまった。
葛葉は視線を周囲に改めて向けた。
アサヒや一と同じような表情で忙しなく準備を進める兵士たち。皆覚悟を決めていた。
「・・・」
周囲を一通り伺った葛葉が視線を戻すと同時だった。
葛葉達の座っているテーブルの横を通っていく200人の兵士たち。
第一防衛陣地で奮戦する兵士達だ。
一人一人の顔を葛葉は見やった。誰も嫌そうな顔はしておらず、死ぬことを恐れて泣きそうな者も居なかった。
それは当然だ。なぜなら、防衛陣地に向かおうとしているのは一人一人が死を覚悟し、自らの死を礎にこの国に勝利と繁栄を願う、【名も無き英雄達】なのだから。
葛葉は視線を戻し、朝食を再び食べ始めた。
(今までの激戦とは全く雰囲気が違う……)
『ゴブリン・キング』や『魔王軍幹部リリアル』や『鬼丸』や『奴隷商傭兵ヴァーン』や『魔王軍幹部二人』との戦い。全て激戦だったはずだが、ここまでの雰囲気はなかった。
今までの戦いを振り返った葛葉はぎゅっと手に力を込めた。そして、
(勝たないと)
確固たる意思で心の中で呟いた。
(生き延びるために、明日を迎えるために。緋月さんの元に帰るために―――)
『―――満月が夜に輝く日、空は血の色に染まり、邪竜の慟哭が世界を覆うだろう。邪竜はもはや、人の力では対抗できぬ神災と成る。人々が欲するは、英雄のみ』
そう書かれた古文書をビリビリに破き、ゴミ箱へとパラパラと捨てるのだった―――。
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