十二話 馬鹿馬鹿しくなって
そんな五十鈴を見つつ、一はほんの少しだけ意地悪をしてみることにした。
「せやからうちに守って欲しい言うん? 五十鈴ちゃん等は葛葉ちゃんのこと、信じてへんの?」
「信じてます! ですが、いつもあの人は……」
一の言葉に五十鈴は間髪開けずに勢いよく応えた。が、すぐに顔を曇らせて今までの大きな戦いを振り返った。
「大切なんは分かるんよ。せやけど、戦いにおいてその感情は邪魔になるんよ」
「それは理解してます。……あの人は無理をしてしまうことは、もう割り切ったはずです」
だが五十鈴は頭の隅では割り切れていないのだった。
「うちはほんまにヤバなった時には、葛葉ちゃんを助けるし、守るで。うちにとっても大切な子やからな」
「……ありがとうございます!」
「あぁ勘違いしぃひんよ? そうならないようにしてくれって思てるねん」
頭を下げて感謝を伝えてくる五十鈴に一は慌てて声を掛けた。葛葉だけを守ると言うことは他の者達が皆戦死し、逃げの一手しかなく、敗北を喫したからだ。
最悪の結末や。と一は自分の考え得る限りの全てのルートを頭の中で思い浮かべて、ハッと鼻で笑うのだった。
「うちはテントに戻って酒飲むわぁ〜、ほなじゃあの〜」
と片手に盃を持ちつつ、片手で五十鈴に手を振りながら帰っていく一。そわそわと五十鈴はそんな一に落ち着けなかった。
それは今にも溢れそうな盃に注がれた酒のせいだった……。
「五十鈴〜、歯ブラシどこ〜?」
テントの中から聞こえてくる声に五十鈴は顔を向けた。するとテントから、歯磨き粉だけを手に持った葛葉が出てきた。
そんな五十鈴の不安が馬鹿馬鹿しくなるような葛葉を見て、五十鈴は安堵の笑みを浮かべた。
もしかすると、何事もなくあっさりと終わってしまうのではと。
「バッグの中に入ってはおりませんか?」
「えー? 無いよー?」
明日戦いに赴く人間とは思えない、その姿。五十鈴はやれやれと言いたげな顔で、テントに向かうのだった―――。
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