十一話 勝った未来と、切望
セクハラだなんだ言っていても葛葉はまだまだこの世界では赤ん坊なのだ。
一人の力で出来ることは、葛葉が一番理解しているのだ。故に葛葉は、
「無理……ですよ。一人でなんて……」
「そないな弱音いっとったらいつまで経って……」
「はい、だからここに居る皆んなで勝って、緋月さんの所に帰るんです」
一のお小言を遮って葛葉は自分の考えを口にした。
ポカンと葛葉の言葉に口を開けていた一がハッと、何かに気が付き、一口お酒を飲んでから葛葉に指を指して。
「今の言葉、本人が聞いたらえっぐい喜ぶんやない?」
「あ、そうですね。喜んで抱き着いてきそうですね」
一の言葉に、葛葉は口にした光景が容易に思い浮かびクスクスと笑ってしまった。
葛葉もコーヒーを一口啜ってまた一息吐くと、一も同じくお酒を飲んだ。
「葛葉様」
「ん、あ、五十鈴」
そんな二人の後ろから声を掛けてきたのは五十鈴だった。いつもの正装ではなく、パジャマ姿で。
五十鈴の手にはココアの入ったカップがあった。
「寝る前に、ちゃんと歯を磨くんですよ」
「なんや二人とももう寝るん?」
コーヒーを飲んでいる葛葉の横に来て、一とは違ったお小言を言ってきた。
そんな会話を聞いていた一が小首を傾げながら二人に尋ねた。
「はい、明日のために。あ、他の二人は?」
「……もう寝ていらっしゃいます」
一の問いに応えて、葛葉は律と鬼丸のことを思い浮かべて五十鈴に尋ねてみると、テントから鬼丸の寝言が聞こえてきた。
残り少ないコーヒーを見やってから、少し多めに飲んだ。
「じゃあ私も寝ようかな」
空になったコーヒーカップを片付けるために、手を差し出してきた五十鈴に渡して、先にテントの方へ向かっていった。
「一様」
「ん〜?」
一が葛葉の背中を眺めていると五十鈴が声を掛けた。
疑問符を頭の上に浮かべて一は五十鈴の横顔を見やった。
「明日、葛葉様をお願いします。もしもの時、葛葉様を守って頂きたいです」
「……う、う〜ん。それ受け入れんの難しくあらへん?」
五十鈴のそのお願いは「うん!」と快く受け入れれるものではなく、一は少し言い淀みながら言葉を濁した。
五十鈴も承知の上で言ったのか、バツの悪そうな顔をしていた。
「今の私たちでは、葛葉様をちゃんと守れる保証が無いです……」
五十鈴の手は不安のせいかプルプルと小刻みに震えていた。
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