九話
「まぁ一つだけワイのした善行っつったら、あいつにあの布渡したくらいやなぁ〜。後は一生暴言吐かれとったわ〜」
と言いアサヒが、がははと笑うが葛葉達は特にコメントすることはなく。シーンと気不味い雰囲気が馬車の中を包んだ。
「昔の話をしたくないのなら仕方がない、それに昔からこいつはこうだからな」
「せやな〜。まぁ、この戦いが終わったら、十二分に話せるやろし、なんなら一冊の本にでけるで?」
ミハヤからフォローをもらいフラグっぽいことを言うアサヒに、鬼丸が振り向いて「あいつ死んだのじゃ」と葛葉に言ってきた。
鬼丸の言葉を笑って誤魔化し、葛葉は外を見やった。未だ馬車に張り付いている一は無視して。
(あと少しで……邪竜討伐……)
今までにない激戦となる予感に、葛葉は少しだけ身体が震えていた。
鬼丸の時でも街の一部分が完全に破壊される戦いだった。鬼丸よりも遥かに巨大な竜との戦いに、恐れを感じない方がおかしいと、葛葉は思っていた。
葛葉はこの身震いが武者震いであればと心の中で思ったりするが、やはり怖いものは怖いのだった。
(律も五十鈴もキリッとしてる……あ、いや、違うなこれ)
と左右に目を向けると背筋を伸ばし瞑想をしてる……風の律が、律同様に背筋を伸ばして目を瞑るが……チラチラと鬼丸のことを見やる五十鈴が映った。
(鬼丸はいつも通りだ)
葛葉の膝の上に座っている鬼丸は、のほほんとした顔で葛葉の手をニギニギと愛おしそうに掴んでいたり、背中を葛葉へ押し付けて、葛葉の胸の感触を感じていたりと、普段通りだった。
(……っ)
鬼丸のこめかみをグリグリしながら外を眺めていると、溶けたように半壊した家屋が流れていった。
「今の……」
「大蛇のブレス攻撃やなぁ。あいつのブレス攻撃はかなりの高温や、鉄剣を二秒で溶かして、三秒で人間をドロドロにするで」
「聞きたくなかったです……」
半壊した家屋を見ていた葛葉に、アサヒは丁寧に説明をしてくれたが、今後の戦いに絶望しそうなことを聞かされたので、葛葉は耳を塞いだ。
「いやぁあいつの攻撃は知っといた方がええで?」
「私は魔獣殲滅担当なので」
耳を塞ぎながらアサヒの言葉を掻き消すようにあーっと声を出していた葛葉は、スンッと真顔でザッパリとアサヒの言葉を切り捨てた。
「なんや英雄はんは消極的やなぁ。魔獣も殲滅して、デザートとして特大のも殲滅せんの?」
「出来ると思いますか?」
「そりゃあ出来るやろ? 魔王軍幹部を二度退けて。そこに居る鬼族の巫女を仲間に入れとるやないか」
と客観的に見ては中々に【英雄】という名に相応しい偉業を成し遂げていた。
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