八話 肝心な肝
「―――てな感じや。最初に会うた時はの、詳しく話せる時間があればなぁ、もっと事細かに話せるんやけど」
一通り話を聞いていた葛葉はアサヒに対してどう言葉をかけようか思案していた。
なぜそこまで初対面の頃から言い争いが出来るんだ、等と思い付いたが、葛葉は静かにお口をチャックした。
「……なるほど。だから前に長期休暇を出して来たのか、理由を言ってくれれば良いものを、無言で有給申請を叩きつけてきたから何事かと思ったぞ?」
葛葉とは違って疑問が解けたミハヤはうむうむと頷いていた。言ってる内容的には、もう少しだけアサヒを叱るなりしてほしいと葛葉は思ったり。
「それ結構前ん時の話ですよ、もう忘れましょか!」
と笑いながら誤魔化そうとするアサヒの横の窓から、またしてもガンッという大きな音が鳴った。
「これ聞こえとるん?」
「いや、完璧な防音なはずだぞ? 大隊長格が乗る馬車だからな」
エッヘンと自慢げに言うミハヤだったが、アサヒはミハヤに疑いの目を向けていた。
葛葉もこんこんと馬車の壁を叩き音を聞くが、防音になってるのかどうかはわからなかった。
そんなこんな話をしているとコンコンと馬車の扉が叩かれた。
「大隊長! 避難区域に入りました! 並びに皆様、ここからは魔物も少なからず出て来ますので装備のご確認を!」
扉を開けると馬に乗った兵士がミハヤへの報告と、葛葉たちへの忠告をしてくれた。失礼しますと一言言い、兵士は馬車から離れていった。
「聞いたな。これより我々は警戒態勢に入る。接敵次第瞬時に敵を屠るぞ」
「了解やで〜」
「は、はい!」
凛とした声でアサヒや葛葉達の気を引き締ませ、ミハヤは席に着いた。それから数秒して。
「それで話の続きだが……」
「するんですか⁉︎」
「? 当然だろう? 気になるのではないのか?」
と頭の上に疑問符を浮かべてミハヤは小首を傾げた。
先ほどのミハヤと今のミハヤとの温度差に風邪を引きそうで、葛葉はぶるぶると身体を震わせるのだった。
「話の続きぃ言われてもな〜、長期有給休暇申請して、旅しただけやしなぁ」
「そこが一番の肝じゃないですか……」
アサヒのこれはどうでもよくね、と言う声音に葛葉はため息を吐きながら突っ込むのだった。
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