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三話 巫女の願い

「故に死ぬ気で……‼︎ いえ、死んでも勝たなければなりません!」


 力強く、だが確かに存在する民への想いと、誰も傷付かないで欲しいという想い。巫女は今、一国を統べ、一国を背負う職務を全うすべく、葛葉達冒険者、ミハヤ達東帝国兵達へ死んでくれと言っているのだ。

 バッと手を突き出し冒険者達、兵士達に向かって巫女は、


「この私、第92代東帝国内閣総理大臣兼、東の巫女である、イズモが命令します! 必ずや勝ちなさい‼︎」


 たった巫女の―――イズモの最後の言葉が、この場に居る戦場へ赴く者達の心に火を付けた。

 地響きのような雄叫びが部屋を埋め尽くしたのだった。


「出立する! 戦の地は神杭(しんくい)山脈だ‼︎」


 ミハヤのその号令と共に冒険者達と兵士達は動き始めるのだった。

 葛葉も部屋を後にしようと扉に足を向けた時だった。


「あの、よろしいでしょうか……?」


 背中に声掛けられた。

 その声は今さっきまで冒険者と兵士達に激励の言葉を投げていた声だった。葛葉は後ろに振り向いて声の主であるイズモの顔をみた。

 到底先程の激励の言葉を言っていた顔とは思えない、優しそうな顔がそこにはあった。


「あなた様が、かの【英雄】なのですね……」

「はい。残念ながら……誰もが思う【英雄】ではありませんが、【英雄】の鬼代葛葉です」


 イズモの言葉に葛葉は答えて、微笑みながら軽口を吐きつつ初対面のイズモへ名乗った。


「意外と、面白い方なのですね。私はイズモと申します。……どうか……どうか、英雄様。この国をお救いくださいませ」


 イズモが口元を隠しながら微笑んで葛葉と同様に名乗ると、葛葉へ頭を下げたのだ。五十鈴達を含め、まだこの場に残っていた者達がその光景に驚いたり、目を見張っていたりしていた。


「あ、あの、頭を……! 頭を上げてください!」


 唐突に頭を下げたイズモに一番驚いていたのは、当人である葛葉であった。

 ほぼ不審者のような挙動で慌てふためく葛葉の様は中々に滑稽だった。


「お願い、出来ますでしょうか……?」


 儚く微笑むイズモ。そんなイズモの顔を見て、葛葉は手に力を込める。


「……喜んで承ります。【英雄】として、あなた達を苦しめる存在から救ってみせます‼︎」


 イズモの顔を真っ直ぐと見つめ、芯のある声でそう約束するのだった。

 イズモは少しばかりか唖然としたが、イズモはすぐに顔を緩めた。


「ありがとうございます。どうか英雄様、並びに皆様方。ご健闘をお祈り申し上げます」


 葛葉を含め冒険者と兵士たちに、イズモは再度深々と頭を下げるのだった。


「ほな行きましょか、隊長」

「あぁ。……イズモ様を」


 激励も終わり、イズモの願いも戦う者達に伝わったことを確認したアサヒがミハヤに声を掛けた。ミハヤはアサヒに頷き返して、イズモをギルド職員に連れて行ってもらうのだった。


「ほな行くで……英雄はん。デッカいトカゲ退治や」


 葛葉の横を通り、去り際にアサヒはそう含み笑いを交えて葛葉に声を掛けるのだった。

 葛葉はグッと気を引き締めて、アサヒやその他の冒険者、兵士達同様に、部屋を後にするのだった―――。

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