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三十二話 もう二度と……しねぇからぁ!!

「……あ」


 鬼丸の倒れた音を聞き正気に戻った葛葉は、自分がやり過ぎたことに気が付いた。頭から血を流す鬼丸はピクリとも動かず、葛葉が心配そうに顔を覗くと、パチパチと瞼が動いたのだ。


「やり過ぎじゃろ……」

「めんご」


 頭を抑えながらムクリと起き上がり鬼丸はガチトーンでそう言った。流石に葛葉も謝ると同時に、鬼丸の背後に五十鈴がやって来た。


「……どう考えても鬼丸様が悪いですよね。正直おふざけ以前の問題です、今回ばかりは気持ち悪いですね」

「うっ……ごめんなのじゃぁ‼︎ 反省しておるのじゃぁ‼︎ というか、もう二度とごめんなのじゃぁ‼︎」


 冷たい視線と冷え切った声、高圧的な雰囲気を醸し出す五十鈴に鬼丸は縋り付いて謝った。

 五十鈴がポケットから【万能薬(エリクサー)】を取り出し、鬼丸の頭へぶっかけため息を吐いてから、鬼丸を引き剥がした。


「鬼丸様はもう一度お風呂に入ってください、血が凄いので。葛葉様はお着替えを、私は血を掃除しますので」


 鬼丸の血だらけの姿を一瞥し、葛葉のビショビショな胸元を一瞥して、血が広がる床を一瞥して、五十鈴は早速取り掛かった。

 鬼丸の背中を押しつつ外に出すと、五十鈴は自分の荷物から雑巾と折りたたみ式バケツを取り出すと、シャワー室に向かい水を入れてくるのだった。

 そしてすぐにたっぷりと水を含ませた雑巾で血を拭い始める。無駄のない動きに葛葉が感心していると、葛葉の膝元がモゾモゾし始めたのだ。


「律ー、そろそろ足が痺れて来たから、布団に寝かせるよー?」

「……ぅ〜? は……ぃ、葛葉しゃん……」


 寝ぼけながらも返事した律を、葛葉は抱え上げ適当な布団に寝かせたのだ。


「あ、足が……」


 ビリビリとする足を抑えながら、葛葉は自分の服―――浴衣の胸辺りを再度確認して、あちゃーっと声を漏らした。浴衣はかなり濡れていて、ほぼ胸全体を覆うように跡になっていた。

 着替えようと畳の部屋の隅に置いてあった、予備の浴衣を取るのだった。

 浴衣は四人分あり、それぞれ二着ずつあったのだ。

 それに浴衣は一人一人サイズがきっちりかっきり合っていて、葛葉は最初恐怖を覚えたりもした。


「配慮が過ぎると怖いんだね〜」


 と葛葉は思ったことを口にした。映画とかでも、やけに主人公等に友好的に接してくる村は、だいたいカルトだったりする故、やはり行き過ぎた配慮は恐怖されるのだろう。


「よいしょっと」


 浴衣を慣れた手付きで新しいのに着替え、葛葉は胸元だけ濡れた浴衣を干すため、別の部屋にハンガーにかけて持っていくのだった―――。

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