三十話 災禍は人を選ばず、人を悲しませる
遅れてすみません!
「……そ、それ……って」
「ん?」
「あ、ありがとうございます、葛葉さん!」
目に見えて動揺している律を不審に思い、受け取ろうと手を伸ばしてきた律の手首をガッと、葛葉は掴んだ。
「えっ」と律が困惑の声を上げると、グンと引っ張られ葛葉と対面する形に座らされた。
「あ、あの葛葉さん……?」
困惑の表情を浮かべながら葛葉のことを見てくる律に、葛葉は律の手にあるアクセサリーを指差し、小首を傾げながら声を掛けた。
「それってさ、何か大切なものなの?」
「……あぁっと、はい。そうです」
すると、律は少しの間を開けてから、重い口を開きアクセサリーを見やった。
「私は邪竜が復活した日に、オリアの街へ言われるがまま一文無しで逃げました。一番安全で、一人でも生きていけるところって聞いていたので」
葛葉がさらに聞く前に、律は自ら話し始めた。
「私は本当なら死んでいたかもしれないんです」
「えっ⁉︎」
律の不意で唐突なその言葉に葛葉は思わず声を漏らした。
あまりにも衝撃的な言葉に、葛葉が動揺するが律は話を続けた。
「逃げ遅れた私を……祖父が助けてくれたんです」
律の手が震え始め、顔が強張り始めた。声を掛けずとも、伝わってくる律の感情。力が一杯に入っていたが、次にはフッと手から力が抜けて行った。
「今も行方はわからないそうです……」
悲しそうな顔でそう口にした。
律の抜けた手の力と表情が、葛葉の心をギュッと締め付けてきたのだ。
「……これは、祖父の大事な物なんです。先祖代々受け継がれてきたらしく、持ち主が亡くなったら渡すと言われていたので……。……っ、あ、そんな」
最後まで言う前にポロッと律の目端から、溜まっていた涙が溢れてしまった。
すると少ししてから律の肩が震え始め、ポロポロと溢れる涙の量も増えていった。
「泣くつもり……はっ。なかった……のにっ……葛葉さんを……心配にっ、させる……つもりはっ、なかったのに……!」
溢れる涙を抑えようと手で拭うが、ダムが決壊したかのように流れる涙は止まることはない。律は俯き目元を手で拭いつつ、途切れ途切れながら声を発する。
今まで我慢していた気持ちが、何かの弾みで崩れてしまったのだ。俯き静かに泣く律を、葛葉は優しく抱いた。背中をさすり、律を落ち着かせようと。
「うっ……うぅ、葛葉さん……」
「うん、大丈夫だよ。辛かったら、私の胸を貸してあげるから、だからさ、我慢しないで? 今はいっぱい泣いていいんだよ」
優しく律を抱いていた葛葉が、律を安心させようとそう声を掛けた。
すると律が俯かせていた顔を上げて、恐る恐ると葛葉へ声を掛けた。
「すみませっ……、借りても、いいですか……?」
「うん、いいよ」
律が泣きつつも、きちんと一言葛葉に断ってから、葛葉の胸に顔を埋めて、声を上げて泣き始める。
そんな律の頭を優しく葛葉は撫でてあげるのだった———。
読んで頂きありがとうございます!!
三章は長いですがまだまだ続くと思います!
ボリューミーとはいえボリューミー過ぎましたね。でもてまだ続くので、三章が終わるまでどうか読んで頂きたいです!
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