二十五話 ユナイテッド
今日は早めです!
葛葉がその音の出た方向に目を向けると、そこには首輪をつけられリードを掴まれ、しょぼんと情けない顔を浮かべるイサオが四つん這いになっていた。
「これでよし」
「……マジか」
「大マジっ‼︎」
葛葉の溢れた言葉に、イサオは瞬時に最適解を葛葉へ返した。四つん這いの情けない姿で。
「あの、その人は?」
「ん、あぁこの乱暴女? 俺のパーティーメンバーだよ。魔法使いのミヅキだ」
「よろしく、それと誰が乱暴女だって?」
「あっ、ゴメナサイ!」
イサオの言葉にミヅキはちゃんと反応して、イサオの顔を睨め付けた。
「当日はよろしく、かわいい英雄さん」
「っ。……はい、お願いします」
ミヅキの言葉に葛葉は息を呑んだ。
まさか極東まで葛葉が英雄だということが知れ渡っているとは思いもよらなかったのだ。
イサオとミヅキが去って行っていく背中を眺めながら、葛葉は、
「にしても、よく言い争いの場面に出くわすなぁ〜」
と口にするのだった。
ますます一とあの青年の関係性が気になってき、葛葉はあの青年を探そうと歩き出した時だった、
「見つけまシター! アナタが有名なヒーローですネ!」
唐突な元気な声、豊満な乳で伸し掛かってくる身体に必死耐えようと葛葉は足を踏ん張った。
聞き覚えのあるその声に、今回はパッと名前が出るのだった。
「ヘレンさん⁉︎」
「わぁ! 覚えててくれたんですネ! カンゲキでーす!」
「ぐふぇ!」
名を呼ぶと、伸し掛かってくる人物―――ヘレンが腕にさらに力を込めてきたのだ。
圧迫され葛葉の喉から、今まで出たことのないような声が出てしまった。咄嗟にヘレンの腕を叩くが、力が緩む気配がなかった。
「おいバカ、それ以上やると死ぬぞ」
「え? わわわ!」
葛葉の顔が青くなった頃、凍えるような冷たい声が、ヘレンのことを止めた。咄嗟に力が抜けていき、葛葉の肺には空気が一杯入ってくるようになった。
「ソーリー! マコトにすみません! ダイジョウブですカ⁉︎」
床にへたり込み咳き込む葛葉に、心配そうに声を掛けてくるヘレン。死の淵にいた葛葉はすぐに声が出せなかった。
「まったく、やはり資本主義はダメだな。自由すぎてバカになる、やはり制限された社会、共産主義こそ至高!」
「コミーは黙っててクダサイ!」
「事実だろうが!」
とまたまた言い争いが目の前で起き始め、葛葉が苦笑を浮かべた。これで三度目だ。
それに今回は危険思想が入っている。
「ゴホッ、ケホッ……う、うぅ。……はぁ、ふぅ」
咳き込みが収まり、葛葉は深呼吸をして息を整えようとした。瞑っていた目を開けると、ヘレンが不安そうに葛葉の顔を覗き込んでいた。
「ダイジョウブですカ?」
「あ、んーはい。多分」
ヘレンを安心させる言葉を吐き、葛葉はゆっくりと立ち上がるのだった。
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