十九話 自由人の部下
「偵察……ですか?」
一の偵察という言葉が引っ掛かった葛葉が、キョトンと小首を傾げながら横に並び歩く一に聞いた。
葛葉の尋ねに、一は笑顔で、
「邪竜ん周りをな嗅ぎ回るんやよ」
自分の鼻の周りを人差し指でグルグルとジェスチャーしながらはにかんだ。
「え、大丈夫なんですかそれ……」
「大丈夫大丈夫。何べんやっても、あいつ起きへんから」
一の偵察の内容を聞いた葛葉の心配を、一はまた気楽そうに笑って返した。
いくらLv.6とは言えど、相手は悪名高い邪竜だ。一はそのうち死んでしまいそうな危なさがある。
「さて、着きおったな。こんままギルド長室に行こかー」
ギルドの目の前に到着した一が、ギルドの扉に手を掛けながら頭だけを振り返らせて、葛葉達にそう言い掛けた。
一が扉を開けると、
「——待っとりんしたよ、えらい長いと思っとりんしたが、ちゃんと来てくれよかったでありんす」
ギルドの中央で閉じた扇子を口元に当てながら、目を細めるサワにそう声を掛けられた。
「なんや勢ぞろいやんな〜」
サワの他には鎧を見に纏った数人の男女と、それらよりも遥かに高価そうな鎧を着て、兜を脇に挟む女性。
反対側には一目で冒険者と分かる人達が居て、その中に何故か特撮怪獣の着ぐるみが置いてあった。
「てか、軍派遣されたん⁉︎」
「ふふふ、そうでありんすえ。細かいことは追って説明しんしょう、とりあえずは席に着いてくりゃれ?」
一が鎧を纏った集団を見て驚きの声を上げると、サワは含み笑いをしながら、一達を急かすのだった。
とりあえず席に着こうと、一が歩き出した時だった。
「あのすみませんが、お風呂入って来ていいですか?」
と場の空気を感じ取れていないのか、それとも馬鹿なのかと疑われるような事を、小さく手を上げ澄ました顔で言い放つスミノ。
葛葉がドン引きし、五十鈴と律がマジかみたいな顔でスミノを見やった。
そして一番先頭を歩いていた一が、はぁとため息を吐いて、
「構わへんよー行ってきぃ〜」
手を振りながらそう口にした。スミノはせめてもの礼儀として、一礼してからこの場から去っていった。
「自由人の下に着くとああなりんすかね〜」
席に着いた一にサワは微笑みつつ、二人は苦笑を浮かべるのだった。
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