十八話 鉄板ネタ
「なんか緋月さんぽくなってません?」
「ふふ〜、そんくらい嬉しいんよ〜。葛葉ちゃんにおうたことがなぁ〜」
口を緩ませていたのを、口角を上げてニシシと笑う一に葛葉は苦笑した。
とそこで視界の端で、律がジーッとなにやら見つめているのに気が付いた。視線の先を見てみると、それは一が装着している目元の布だった。
あ゙と葛葉が呟くと、一が律の視線に気が付いてしまった。
「ん〜? なんやー、律ちゃん気ぃなっとるん?」
「へっ? あ、いえ、ごめんなさい、失礼しました」
「あははー、構わへん構わへんよ。もう慣れてもうたからな〜。こうやって見せるんは久々やけどなぁ」
シュルシュルと衣擦れの音を立てながら布を取り外す一。葛葉は二人に目配せして、大人しく一の顔を見ることにした。二度目だ、葛葉が一の顔を見るのは。
あの時は少し驚いてしまったが、次は驚かないと心に決めているのだ。
「……んよしょ。ほな、見てみぃ? どやどや〜?」
「ひっ……!」
「ぇ」
布を取り外し俯いていた顔をゆっくり上げた一の顔を二人は直視した。
空っぽの眼窩が二人の視線の先にはあったのだ。
「ふひひ〜お化け屋敷出れるやろ〜? ほな葛葉ちゃんはどう思う〜?」
そう言いながら葛葉の方にも振り向いた一。空っぽの眼窩を見て、葛葉は自然と息を呑んでしまった。
驚いたからではない、ただどうしてこうなってしまったのかを想像したからだ。
前に聞いた時は"戦っている時に油断したから"と言っていた。だが一瞬で目玉をくり抜くことなぞ出来るわけが無い、なにかあるのではと、想像したからだった。
「おかしいな〜誰も笑わへんやん? うちの鉄板ネタっちゅうに……やったら見せ損ちゃうかー」
「その鉄板ネタで笑うの、多分赤ちゃんかサイコだけですよ」
「それもそか! って赤ちゃん泣いてまうやろが! あはは〜」
冗談やノリツッコミを言いながら目隠しの布を着け直しすのだった。
例え目がない本人がそう言ったとしても笑うなどあり得ない。正常な人、人間である以上笑って言い訳がないのだ。愛想笑いさえ許されない。
これを鉄板ネタにする一も十分性格悪い気がする、と葛葉はそう思いながら作り笑いを浮かべた。
「ほな行こか〜。葛葉ちゃん達もギルドに用事やろ?」
「そうですけど……一さんもですか?」
「そやよぉ。うちらは今し方偵察から帰って来たんよ」
肩を回しながらホッと息を吐く一、葛葉が改めて一の姿を見てみると、所々に泥や魔獣の血が付着していた。
それはスミノも同じで、メイド服の所々が斬れていたり、解れていたりとボロボロだった。カチューシャにはベッタリと魔獣の血が付着していた。
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