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十話 律の本音

「く、葛葉さん⁉︎」


 予想外の人物が目線の先に居て、律は目玉が飛び出しそうなほど目を見開いた。


「あ、じゃあ、あんたのパーティメンバーか」


 『葛葉』という名を聞いた母親は、拳で手のひらを打った。


「どっ! どどどうしてここにっ⁉︎ 葛葉さん……あ、そ、その!」


 葛葉がゆっくりと動き出し、律は咄嗟に顔を腕で覆った。それは律が、葛葉がきっと怒っているのだと思っていたからだった。

 だが律の予想は見事に外れた。


「…………ぇ」

「よかった……よかった……」


 律のことを抱き寄せ、ギュウッと強く抱き締める葛葉に、律はポカンと口を開けた。

 予想と全く違う出来事に驚きを隠せないでいた。


「心配……したん、だから!」


 震える声と途切れ途切れの葛葉の声に、律は顔を曇らせた。

 葛葉が傷心であったことは承知の上で書き置きのみ残して先に行ってしまった、その罪悪感があったからだ。


「すみません……。葛葉さん達を……私の問題のためだけに、その……こんな危険なところに来させたくなかったんです……」


 律は優しい少女だ。

 故にあの選択をしたのだ。


「……ううん。いいの、私は……律と皆んなと一緒なら何処にでも行くから。……まだまだ弱い私が悪いから」

「そんなこと!」


 ないと言おうとしたところで、律の口が葛葉によって塞がれてしまった。

 葛葉が弱いことなんて一ミリもない。でも、葛葉は自分にそう言い聞かせるのだ。理由はよく分からないが。


「葛葉さん……すみません、私、葛葉さんが悲しむことくらい分かってたのに……でも、それ以上に、葛葉さんにはもう、休んで欲しくて……ッ!」


 抱き締めてくれる葛葉の胸の中で、律は思いを赤裸々に告白し出した。


「きっと、葛葉さんは、今のこの状況を見て……頑張ってしまう人だから……! でも、もう葛葉さんは……頑張ってるから……だから」

「律……」


 律のそんな告白に、葛葉は律の耳元で優しい声で、律の思いに対し、自分の思いを吐露し出した。


「私は頑張らないと、いけないの。誰に言われるまでもなく、自分から進んで、頑張って頑張って頑張って……」


 この世界に来て葛葉が背負わされる重荷とは、そういう物だった。

 緋月からの異様なまでの信用、葉加瀬からの信頼、勇者ラグスの師、オリアの街を何度も守った責任。事実は葛葉一人の力じゃなかった、だがそれでも人々の、衆目の目に映るのは、矮小な力しか持っていない弱者が、我武者羅に強者へと立ち向かい一矢報い、そして勝利を勝ち取る光景だった。

 葛葉は人々に希望を与えてしまったのだ。

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