五話 不意打ち
ギリちゃんセーフで!
「―――葛葉様! 駄目と言いましたよね! 無茶をしてはいけないんですよ⁉︎ もっとご自身を大切になさって下さい‼︎」
近付くにつれて、そんな五十鈴の激おこぷんぷん声が聞こえて来た。
「ごめん〜て」
「反省してるんですか⁉︎ こんなになって……葛葉様! 次からは全力で止めますからね!」
「……う〜。あ、鬼丸」
五十鈴は、五十鈴が大切にしていたハンカチで葛葉の血を拭い、虚空庫からポーションを取り出して、葛葉の傷口に優しく掛けていった。
そんな二人の下に着いた鬼丸は、目を細めて口を和ませるのだった。
「お疲れ〜」
「ワシは特に疲れてはおらんよ。……葛葉よ、あまり五十鈴を困らせるでないぞ?」
「ゔっ……うん」
五十鈴にはもちろん言われると予想していたが、鬼丸からも小言を言われることは予想していなかった葛葉は物の悪そうな顔で返事をするのだった。
その時だった、葛葉の目の前が真っ赤に猛り狂う火球に覆われたのだ。
「―――ッ」
五十鈴を突き飛ばし盾を拝借し地面に突き立て構えた。鬼丸はいつの間にか居なくなっていたのだ。
盾に衝撃がやってくると同時、身体がボールのように跳ね飛ばされた。
大分長いことそんな感覚を食らっていると、ゴギッという痛みと音を最後に、目の前が暗転していくのだった。
「―――チッ、よくもやってくれおったのう‼︎ 死に晒すがよいッ‼︎」
瀕死の状態の魔獣の頭上で、金棒を構え目一杯の力で殴りつけようとしていた鬼丸が、森の茂みの中に吹っ飛んでいった葛葉を思いながら叫んだ。
同時に隕石が落ちたかのような衝撃が森の木々を揺らした。
落とした卵のように頭が潰れて血を流す魔獣の死骸を見下ろして、鬼丸はジーッと様子を伺った。
「もう、流石に終いかの」
ピクリとも動かない魔獣にホッと息を吐いた時だった。
「…………な」
目の前に頭部が潰れて火球を喉で生成し、そのまま放とうとする魔獣の首を上げたのだ。
「アンデッドか⁉︎」
攻撃範囲から外れようとしたが、鬼丸の居た場所の奥の方には負傷した葛葉が倒れているはずなのだ。
何度倒しても起き上がる魔獣に恨み言を言いながらも、咄嗟に魔獣の喉奥に手を突っ込んだ。
「く……こんなものがなんぼのもんじゃぁ‼︎」
もう片方の手で魔獣の首を掴むと、そのまま縦に引き裂いていくのだった。
首から胴、胴から尻尾の先まで。
そして制御を失った火球は、鬼丸の直ぐ真横で暴発してしまうのだった―――。
―――次に目が覚めると、目の前には太陽を隠す大きな山が……。
「五十鈴……?」
「―――っ、葛葉様! お目覚めですか⁉︎」
山と思っていたものはどうやら五十鈴の立派な双丘だった。それに気が付き、葛葉が五十鈴に声をかけると、五十鈴は弾かれたように葛葉のことを見やった。
「お身体は痛みませんか⁉︎」
「う、うん、だいじょうび」
鬼気迫る五十鈴の勢いに気圧されながらも、葛葉は五十鈴の問いかけに答えていった。
「……ん、空が動いてる?」
そう口にした時だった。ガコンという音と視界が揺れたのだ。
「馬車?」
「はい、あの後近くを通っていた馬車に乗せてもらいました」
五十鈴が周りを見て、木でできた荷台に手を添えるのだった。
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