四話 無茶
「う〜ん、あれでも無理なんだ……」
葛葉達の猛攻を受けた魔獣だったが、まだ戦う意思はあるようで悠然と葛葉達の前に立っていた。
葛葉が額の汗を拭いため息を溢した。
脇腹を大きく欠損し前足も潰れて、右半身は何個もの大きな打撲痕が出来ているというのに、目の前の魔獣は立っていた。
「葛葉様……不味いです。アイツ奥の手、使って来ます」
大空を見上げた魔獣の口が熱を帯びる。
メラメラと猛り、鉄をも溶かす温度の熱に、葛葉の汗がダラダラと溢れてきた。
「よ、避けないとっ‼︎」
目の前で膨れ上がる火球に顔の色を青くした葛葉が、駆け出そうとした時だった。
葛葉の目の前を小さな影が横切っていったのだ。
「……まさかっ⁉︎」
影が通り過ぎていった方向、魔獣がいる方に目を向けると、金棒を担ぎながら猛スピードで走る鬼丸の背中があった。
額からは二本のツノを顕現させていた。
「ワシに……全て任せるのじゃ‼︎」
跳躍し鬼丸が金棒を魔獣の横顔にクリーンヒットさせた。絶対に首が折れていそうなくらいの速度で曲がった魔獣の頭。大きさとしては戦車二台分の大きさなのにだ。
「本当にバグってる〜……」
金棒でラッシュをし始める鬼丸を眺めながら葛葉はそう呟くのだった。
魔獣が放とうとしていた火球も消えており、鬼丸の一発一発が致命傷並の威力なのか、魔獣の顔が変形していた。
「―――ッ。此奴!」
金棒ラッシュの攻撃を繰り出していた鬼丸が、何かに気が付きピタッと瞳孔を開き動きを止めた。
魔獣の口の中に再び火球が出来ていたのだ。
「ウヌらッ! 早く逃げ―――!」
鬼丸が振り返り葛葉達に声を張り上げ投げ掛けた。
その瞬間だった、今度は鬼丸の直ぐ真横を何かが通り過ぎていったのだ。
直後、鬼丸の背後が大爆発を起こした。
「……」
それは魔獣が溜め込んでいた火球と、鬼丸の真横を通り過ぎた物のせいだった。
振り返り葛葉のことを見ると、そこには目から血を流して両腕に亀裂を走らせた姿の葛葉がいた。
肩にはこの前の緋月との戦いで使った兵器が担がれていた。
「無茶しおって」
はぁとため息を吐き、鬼丸は地面に着地した。
金棒をペン回しのようにクルクルと回して肩に担ぎ、葛葉達の下へ歩いていくのだった。
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