一話 小手調べ
「―――五十鈴、盾!」
「はいっ‼︎」
葛葉の声が響くと同時に、ガゴォン‼︎ とそうそう森の中では聞けないような音が轟いた。
木々が薙ぎ倒され、五十鈴の身体が吹っ飛ばされた。
「っ。鬼丸!」
「まっかせいのじゃ!」
相手していた魔獣の頭部を金棒で粉砕し、鬼丸は葛葉と五十鈴が二人掛りで戦っていた魔獣へ立ち向かう。
五十鈴が戦闘復帰できるまでの間、葛葉はポーションを飲み干した。
「あーもう、『想像』使いたい!」
いちいち立ち止まってポーションを飲まないと回復できない不便さに、葛葉は苛立ちを表すように地面に殻になった瓶を投げ捨てた。
「鬼丸様、復帰します‼︎」
今の葛葉が頭痛を引き起こさずに作り五十鈴に渡していた、超簡易的な胸当てがボロボロになった五十鈴が、鬼丸と共に魔獣と戦い始めた。
そんな光景を目にしていた葛葉が、今から三十分ほど前のことを思い出した。
―――三十分前
目の前の景色が真っ白から、新緑の緑へと変わった。
先ほどまでの浮遊感がなくなり、今は両足できちんと立っている感覚がした。
「着いたのじゃ〜」
「鬼丸様、先に行かれては……!」
はしゃいで走り出す鬼丸の後を追う五十鈴。五十鈴に迷惑を掛ける鬼丸に、葛葉がため息を吐いていると、何かの咆哮が上がった。
長く獰猛な咆哮が。
「っ。五十鈴、構えて。……2時の方向に!」
「はいっ!」
ドスンドスンと大き過ぎる足音に、全方位からやって来るのではと思ってしまうが、葛葉は冷静にそして正確に足音を聞き分け、向かって来る方向を割り出した。
ドダダダと足音が迫り来る音と木々が薙ぎ倒される音が森に響く。
そしてその何かが姿を現した。
「『レッサードラゴンレックス』⁉︎」
鬼丸が驚き声を上げた。
葛葉と五十鈴の顔が強張るが、直ぐに身体を動かした。
「葛葉よ、奴は俊敏じゃ! ワシと五十鈴では追いつけん! 一人で持ち堪えれるか⁉︎」
巨大な尻尾が振り下ろされるが、それを鬼丸が金棒で受け止め、葛葉に情報を伝え戦い方を提案した。
「わかった!」
「うむ! 五十鈴よ、ワシらは雑魚をやるのじゃ!」
「はい!」
一際大きな魔獣の周りにいる小型の魔獣達。大型魔獣と変わらぬ獰猛な顔で、葛葉達を睨んでいた。
並びの悪い鋭い牙から涎が地面に垂れ落ちた。
「クックック、面白いのじゃ……ワシを餌だと思っておるのか、貴様等。醜悪な劣等種如きが、頭が高いのじゃ、平伏せよ」
涎を垂れ流していた魔獣達が、殺意を高める緋月を見て途端に丸くなっていった。
飛びかかろうとしていた四本の脚がガクガクと震え、今にも逃げ出しそうであった。
二人が同時にツノを顕現させた。どうやら本気で殺りに行く気なのかと、葛葉は苦笑を浮かべた。
「……よし。んと、私は、この魔獣とか……」
見上げてしまう程の巨躯に葛葉は頰を引き攣らせた。どう考えてもまともに戦えそうになかったからだ。
だが鬼丸は葛葉に任せた。それは葛葉だけでも討伐可ということ。
ナイフを創造し構える。魔獣が血走らせた目で葛葉を睨み付け、そして耳を劈く咆哮を打ち上げた。
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