十六話 二人
「ヤンデレ小娘が攫われた後にこれじゃからな。……吹っ切れたといえ、あの時の後悔は、葛葉の魂に刻まれてしまっておるからのう。……酷なことをしおった」
律はキツイお仕置きを受けなくてはならない。それが今の葛葉にしたことの償いなのだから。
二人は顔を引っ込めてゆっくりと扉を閉めた。
「葛葉は寝るかのう?」
「どうでしょうか……。ですがもう夜も遅いですし」
「そうじゃな、ワシらも寝るとするかのう」
自分達の部屋の方に足を向けて、後ろ髪を引かれながらも歩き出した。その時だった、ガチャッと背後から扉の開く音が鳴った。
振り返ると、虚な瞳の葛葉が扉を開けて、二人のことを見ていた。
「……く、葛葉様?」
「ど〜……どうかしたかのう……?」
葛葉の虚な瞳は結構怖く、二人は自然と後退りながら葛葉に声を掛けた。
だが葛葉は一言も声を発さずに、二人へヨロヨロと近寄った。そして二人の手を取り、少し強引に部屋に引き摺り込んだ。
二人が疑問に思い顔を見合わせている最中も、葛葉は二人を引っ張る。
そしてベッド前に連れてくると、二人に抱き着き一緒にベッドへと倒れ込んだ。
「く、葛葉様⁉︎」
「おぉ〜葛葉よ、遂に3Pをする気じゃな!?」
「鬼丸様⁉︎」
葛葉の行動に驚き、声を上げる五十鈴。そしてさらにこんな時でもふざけたことを抜かした、鬼丸にも五十鈴は声を上げた。
「……かないで」
「……?」
「葛葉様……?」
今まで一言も声を発さなかった葛葉がボソッと何かを言った。最初の方が聞き取れなかった二人が疑問符を浮かべる。
が直ぐに葛葉がもう一度ボソッと呟きはじめた。
「二人は……どこにも、行かないで」
ギュッと二人を抱きしめる力を強く込めながらも、葛葉のその声はとてつもなく震えていた。
今にも泣きそうに喉を詰まらせて、生まれたての子鹿のように手を震わせて。
「っ。……はい、不肖の身ではありますが。この五十鈴、最期の最期まで葛葉様の元に居ります。ご安心下さい」
葛葉の背中に優しく手を添えて、五十鈴は優しい声でそう宣言する。
「……安心せい葛葉よ。ワシがウヌを、伴侶を置いて行くことなかろうて。ワシを信じよ……ワシは葛葉、ウヌを愛しておるからのう」
葛葉の腕に手を添えて鬼丸は言う。葛葉のことが好きで好きで愛している鬼丸は、一切のおふざけを入れずに。
「一緒にいてやるのじゃ。……安心して眠るがよい」
二人は葛葉の背中を優しく摩る。不安を払うように。
あの時、葛葉は何も出来なかった。再び、葛葉は何も出来ないまま失ってしまうかもしれない。
と葛葉が思っているであろう不安を、二人も感じてしまったのだ。
「よく、眠るのじゃ。寝て、気持ちを楽にするのじゃよ」
鬼丸の優しい声と、五十鈴の優しい手に、葛葉の不安がほんのりと消えていく。徐々に徐々に。
ゆっくりと意識がまどろみの中に沈んで行いった……。
葛葉を抱き締めながら頭を撫でる。
安らかな寝顔だが、目端が少し赤くなっており、涙の跡もあった。
「全く、ワシの方が優しく声を掛けてやったのに」
「恥ずかしいんですよ、きっと」
五十鈴に抱き着き、五十鈴の胸の中、温かい抱擁の中で眠る葛葉に、不満気に声を吐露する鬼丸。
肘枕でジトーっと葛葉を見つめる。
「……フッ、愛い奴じゃのう」
赤子のように眠りに着く葛葉を眺めて、鬼丸は微笑んでそう呟くのだった―――。
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