一話 【英雄】は居ない
五章です!
――私は全てを奪われて生を受けた。
今から十七年前。とある鬼族の村でその少女は生まれてきた。鬼族の長を両親に持つ子が。そして生を受けてから五年。
「そんな! そんな事はさせません!」
「なんだと? 儂の言う事が聞けぬと?」
「あぁそうだよ! この子はそんなことのために生まれてきた子じゃ無い! それなのに、それなのに!」
「……はぁ、お前はいつまで経っても変わらぬな。もうよい! 子供の我儘なぞに付き合っている暇はない!」
里の長の家を訪ねてきた族長に少女は連れ出されてしまった。
少女の両親は立派な長ではない。次期族長の座を持つだけであり、実の長にはどうにもする事はできなかった。
少女は無抵抗のまま連れていかれ、族長の家でその時が来るまで幽閉された。
――死にたい。
「五十鈴様。お食事をお持ちしました」
「……」
「……置いておきますね」
扉の向こうからは族長専属のメイドが声を掛けてくる。五十鈴はいつも決まって返事を返さない。メイドは料理が置かれた盆を床に置き、その部屋の前から去っていった。
母に会いたい、父に会いたい、早く元の生活に戻りたい。願っても願わない。星に願っても叶えてくれない。神に祈っても叶えてはくれない。
五十鈴の最後の日は後四日後の生贄の日。やっと解放される、こんな人生から。
物語の【英雄】はこういう時、必ず助けに来てくれるのだろう。でも……【英雄】は居ない。夢物語でもいい、絵空事でもいい、誰かが手を差し伸べてくれることを少女は祈っている――。
読んでいただき、ありがとうございます!
遂に第一部五章! 第一部の最終章ですね!
最終章も面白く出来る様に頑張ります!