七話 杞憂は現実となるのか
「……律。いいよ、一緒に寝よ」
「…………っ。そう、ですね、はい! お言葉に甘えて!」
葛葉のその言葉に律はとうとう葛藤するのを諦め、欲望のままに葛葉の隣で目を瞑るのだった。
暫くして、律の寝息を聞いていた葛葉は、ふと目を開け、律の頰に優しく指で触れた。
(柄にもなく甘えちゃった……でも、許してくれるよね)
儚げな顔で触れていた指をゆっくりと動かす。
(だって、律が居なくなりそうだったから)
寝ている律に葛葉は抱き着いて、律と共に深い眠りにつくのだった。
――翌朝――
ガタッ! という音で葛葉は目を覚ました、パチパチと眠気眼を擦りながら開くと、朝日が差し込み、机の前で立っている人物の影が床に伸びていた。
何度か瞬きを繰り返して、よく見えるようになった目で机を再度見ると、そこには居たのはどうやら律だった。
寝起きなためか髪をボサボサにした律が。
確認できた律の顔は、驚きと困惑やらなんやらの色んな感情によって筆舌出来ない表情だった。
「律……?」
「っ。……あ、お! おは、おはようございます! 葛葉さんっ!」
葛葉に声を掛けられた律が肩を跳ねさせ振り向き、葛葉へ見るからに怪しく挨拶をするのだった。
「……律、それ何?」
「え、あ! な、なんでもありません! ほ、ほ本当にっ!」
葛葉が律の手元に持っているものに気付き、なんなのか尋ねると、律は先ほどよりも激しく動揺して必死に隠そうとした。
「り〜つ〜!」
「ほ、本当になんでもありませんからぁ‼︎」
ダダダと手元に持っていたものを隠しながら、律は葛葉の部屋を走り去っていってしまった。
ガバッと葛葉は起き上がり、む〜っと頬をふくらせるのだった―――。
玄関にある車椅子を見て「今日、返しに行かないと」と思いつつ、視線を更に下に移すと、一組の靴がなくなっていた。
「……」
玄関に目をやりつつ葛葉はリビングへと入っていった。
リビングに入って、いの一番に目に入ったのは、テーブルの上の食器を片付ける五十鈴の姿だった。
「おはよー、五十鈴」
「葛葉様、おはようございます」
葛葉が後ろから声を掛けると、五十鈴は丁寧に振り返って挨拶を返した。
葛葉はそのままキッチンの中に入っていき、コップを手に取り蛇口を捻って、水を飲む。寝起きの渇いた喉が潤っていく。
「五十鈴……律は?」
「律様ですか? 律様はやる事があると、ご飯を食べてから外に出掛けましたよ」
「……そっか」
朝のことがずっと引っ掛かっている葛葉は、律のことが心配になっていた。どこかに、遠いどこかに行ってしまうのではと。
自分のあの杞憂が現実になってしまうのではと。
「葛葉様、鬼丸様を起こしに行って貰えますか?」
「あ、うん。分かった」
ボーッとしていると、五十鈴が声を掛けてきた。ボーッとしている葛葉を見かねてか。
葛葉は五十鈴にお願いされた通りに、鬼丸を起こしに向かった。その間も半分律のことを考えていたが。
やがて鬼丸の部屋の前に着き、扉をコンコンとノックした。が声は返って来なかった。
「鬼丸ー?」
声も掛けてみるが、返事は返って来なかった。
寝てるなと確信し葛葉はドアノブに手を掛けて部屋の中に入っていった。
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