十四話 考えを
「本気だよ、ちょうどいい舞台じゃないかな?」
「……あの子の命に関わることなんだよ」
「平気でしょう? それとも緋月は信用してないの?」
緋月の怒りはごもっともで、葉加瀬の言い分は少し理想すぎるのだ。
「葉加瀬は、そんな人間じゃないだろ‼︎」
「……緋月。この世界は何を欲していると思う?」
見損なったと遠回しに言う緋月に対して、葉加瀬は意味深な事を問い掛けた。
緋月が「は?」と声を漏らし、口を閉ざす。それから十秒もせずに葉加瀬は、
「世界は【英雄】を欲しているんだよ」
と当然の事のように言った。
その葉加瀬の言葉に緋月は下唇を強く噛んだ。世界が英雄を欲しているのは事実だからだ。
「つまり……君は」
「邪竜討伐を英雄の原点回帰の舞台にするつもりだよ」
「っ。本気か……」
邪竜という世界から注目される悪しき存在を出汁に、葛葉という公になっていない【英雄】を大胆にカッコよく登場させる、それが葉加瀬が即興で思い付いた茶番だった。
「と言ってもこんな酔狂な事、本気にはしないで。結局はあの子次第だし、何よりも、緋月次第だよ」
「特訓の結果で変わるんだよね……」
今日行う特訓、その結果―――葛葉がきちんと成長し、あわよくば緋月を倒せば極東へと向かわせる。
負ければ大人しくこの地で鍛錬の日々を送るだけになる。
「ボクは葛っちゃんを邪竜と戦わせる気はない、だから大人気ないかもだけど、本気でやらせてもらうよ?」
緋月の脳裏に思い起されるのは、かつての全人類の負の記憶だ。
頭を振って、思い出した事を必死で忘れようとした。
「構わないよ。……本音を言うと、邪竜とは戦わせたくない。でもあの子の夢を閉ざしたくはない……」
葉加瀬があのような事を言ったのにはそれ相応の考えがあった。
葛葉の目指すモノはそれほど過酷なのだ。かつての英雄がそうであったように。
「それじゃあ、採決を取るために色々準備しなくては」
「今日の特訓は、すこし盛り上がるかな?」
「だろうね」
同時に立ち上がった二人が、ギルド長室の扉に向かう。
まだまだ朝早いが特訓の準備をし始めるのだ。手始めに、葉加瀬は手紙の内容を報せに来た職員に、あれこれと指示を飛ばした。
職員が返事を返してすぐに動き出した。
「ボクは身体を休めるね〜、完璧な状態で挑みたいからさ」
葉加瀬より一歩先に駆け出した緋月が、振り向き、にししと笑みを浮かべてそんな事を口にした。
葉加瀬が「はぁ」とため息を吐いて、緋月へ、
「……職務は丸投げか」
と苦言を言ってやるのだった。
ゔっ……とバツの悪そうな顔して緋月はそそくさと先を急ぎ始めるのだった。
「さ、レッツラゴー!」
そんな掛け声と共に―――。
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