十一話 二人を
すいません、少しトラブってしまいました。
キョトンと小首を傾げ五十鈴は戸惑ってしまった。葛葉の顔を見て名を呼んでくる。
「カナデちゃんが攫われて助けられないって言われて、大切な人を失いたくないって、無自覚に五十鈴達を遠ざけてた」
眉間に皺を寄せ自らの愚行を後悔しながら話をする葛葉。
「仲間なのに、大切な」
「……葛葉様。それはごく自然なことです。大切なモノを失いたくないのは万人に共通する感情です、自分のその感情を悪だと言わないで下さい」
葛葉の言葉を聞き、五十鈴は少し眉尻を上げて語気を強くして話し出す。
「私達は嬉しいですよ、それほどまでに大切にされていると、そう思えますから……。でも、葛葉様にはそれが辛そうに見えて、胸が苦しかったんです。無理をして でも私達を大切にする。葛葉様はお優しいですから」
「……いつか、失う。今までがそう告げてきてるの」
大切なものも、大切でないものも全て、必ず失ってしまう。
それは葛葉の経験則からだ。
「葛葉様、私達も強くなります。あなたと一緒に強くなります、なって見せます。だからただ守られるだけの存在と思わないで下さい」
それはあの時の葛葉に刺さる言葉だった。
ヴィルトゥスの部下との戦いの時、葛葉はあの二人では勝てないと思った。事実だけみればその通りだった。
だが二人は善戦して見せた。それは予想外の出来事だった。
「うん、五十鈴達を信じる」
だがそれは二人を信じていなかったとも言える。信じていれば、「あの二人なら」と思えていれば、少しは変わったかもしれないのだから。
過去はもう変えられない、だが未来は変えられるかもしれない。だから次からは二人を信じるのだ。
「あ、お腹空いた」
「そうですね、今お作りします」
そんな少しピリッとしていた雰囲気を、葛葉の腹の虫が可愛らしい音を立ててぶち壊したのだった。
二人はクスクスと笑い合い気を切り替えて、ソファーから立ち上がった。
「ご飯、楽しみにしてる!」
葛葉はキッチンに向かう五十鈴の背中に向かって、微笑みと共に声をかけるのだった―――。
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