八話 聖女のようで
少し遅れました!
どんなに過程が良かったとしても、結果がそれを帳消しにする。
「あなたは強いです。……でも気付いていないんです、自覚している以上に無自覚に人を遠ざけようとしていることに」
やっと本題だと言わんばかりにルプスが声を大きくして言い放った。
「大切な人を失いました。……それはとても辛くてとても悲しい。ましてや、英雄様の場合は手の届く範囲で、自分も戦える目の前での出来事でした」
ルプスが自身の胸に手を置き、人の気持ちを肩代わりしているかのように顔色を悪くさせながらも、諭すように言う。
その姿に葛葉は息を呑んだ。
「ですが、大切な人を失いたくないからと言って、最も大切にしなくてはならない人達を遠ざけるのは愚かな行為です!」
その声には怒りが乗っかっている気がした。
「私を助け出してくれた英雄様はその程度の人物なのでしょうか?」
「……」
「まだ諦めないでください。あなたが守れば良いんです」
「簡単に言うな‼︎」と激昂したくなった自分に気が付き、葛葉は拳を強く握り締めた。血が出るほどに、爪が皮膚を裂いて肉の中に入っていくのを感じながら、冷静にルプスの話を聞く。
「そのための特訓なのでしょう? ……あなたの大切な人達も、守られるだけの存在じゃないことをあなたは知っているはずです。信じなくては、あなたの傍にずっと居たいと、願い日々精進しているのですから」
今度はルプスが葛葉の肩を掴んだ。
葛葉のように強い力では無く、優しく包み込むかのような力で。
「もう迷う必要はないはずですよ。あなたはとっくに気付いていますよね」
「……そう、かも」
「今日、このあとしなくてはならないことはなんですか?」
「皆んなと夜ご飯を食べたい」
肩を掴んでいた手はいつの間にか頰を包んでいた。
ルプスの柔らかい手に、温かい手の感触をしっかりと味わって、迷いが晴れた。
聖女のようなルプスは迷える子羊を導く力があるのだろう。
ルプスの手を取り、頰をから離させた。そして、葛葉は光の差す方へ一歩踏み出した。
「ありがとう……ルプスさん」
「私も助けられた恩返しができたのなら、幸いです」
そう最後に微笑み、手を小さく振ってくるルプスに見送られ、葛葉は帰路に着くのだった。
「……ふぅ。手のかかる英雄様ですね。……でも、英雄譚に出て来るような完璧な英雄では、面白くありませんものね」
葛葉が完全に去ったのを確認したルプスが嘆息した。
へたり込むように建物の出っ張りに腰掛け、足をぶらぶらとさせていると、路地裏の影から青年が姿を現した。
「たく、姉ちゃんもよくあんなののご機嫌取りができんな。俺ぁごめんだね、あんな面倒くせー女」
「こーら、私の命の恩人なんだよ?」
隣に並び立った青年の頭に軽く拳を当てるが、青年はそれを鬱陶しそうに払い除けた。
「ガルは酷いねー」
「はっ! あんな面倒くせー女なんか俺が殺してやりたくなる」
「もー、そんな事したらお姉ちゃん泣くよ?」
とポカポカと屈強な青年の身体を、拳を握って叩きまくるのだった。
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