四話 隠される本音
遅れました、すみません!
―――そんな葛葉を見ていて、鬼丸は何度も"苛立ちを押し殺していた"。
(気付いていないとは言え、見るに堪えんのう。……虫唾が走るのじゃ)
ここ数日の葛葉は、誰がどう見ようと見るに堪えない醜さだった。
それを一切自覚していないのだ、葛葉自身が。
(……と言って引っ叩くにもいかんしのう。その役目は彼奴じゃろうて)
こんな葛葉に親身になって戦い方、精神力の向上をやってのける、緋月にしか出来ないことなのだ。
(後輩を失い……失うことの恐ろしさ、怖さを知ってもなお、律と五十鈴にあの態度とは……面倒臭い女じゃのう)
朝や脱衣所の場面、葛葉は二人にそっけなかった。
仲間を失ったのにあの態度なのだから、虫唾が走っても仕方がないことなのだ。
今もなお葛葉の心は崩れたままだ。周りがよく見えず、強くなることに縛られる奴隷。
(……じゃがそれは、裏を返せば律と五十鈴を失った時の喪失感を軽くさせる為の、本能的な行いかのう)
カナデを失った際、葛葉はあれ程までに正気を失った。ならば、次に失うとして、それが律や五十鈴だった場合。
葛葉の心はズタボロに崩れるだろう。二度と顔を上げ前を向くことはできない。失った時、葛葉の本能が何をするか理解している。
きっと葛葉にとっても、その他の人々にとっても、悲しい結末が待っている。だから、無意識に遠ざけようとしているのだろう。
(強くなるには、カナデを失ったことの克服と、本能を抑えつけることが必須かのう? 人とはなんともまぁ脆いものじゃな)
葛葉の頭を確かめるように撫で、鬼丸は葛葉の空虚な瞳を見つめるのだった―――。
激しい剣戟の音がほのぼのとした真昼間に響いていた。砂埃が舞い汗が地面に落ち跡ができる。鳴り止まない音、吹き荒ぶ風、荒い吐息。
戦い合う二人の姿を捉えるためには、ハイスピードカメラが必要なほどの高速戦闘が繰り広げられていた。
「……っ!」
「ふっ!」
緋月の超速に遅れをとり背後を取られるが、身体を無理矢理に動かして攻撃を交わす。
交わす際にナイフを飛ばして攻撃も同時に行うが、緋月はそれを頭をズラすことで避けた。
特訓が始まってまだ五分しか経っていないが。
「くっ」
「……」
怪我だらけの葛葉は、『創造』で拳銃を造った。非殺傷弾であるゴム弾を発射できる拳銃を。
だが実際には拳銃でゴム弾は撃てないのだ、打てるのはショットガンが主であり、今葛葉が造っているのは完全なるオリジナルだ。
光が形を成し、そして霧散した。
間髪入れず葛葉は躊躇なく引き金を引いた。緋月と葛葉の距離は大体10メートルほど、ゴム弾の有効射程は30、40メートルほど、緋月には余裕で届く。
「―――っ! やっぱり……‼︎」
緋月に届きはしたゴム弾は全て交わされてしまった。
そして前傾姿勢で猪突猛進してきた緋月に、葛葉は反応することができずそのまま腹部に強烈な一撃をもらってしまった。
「……ぅ。ごほっ、ごほっ」
咳き込んで込み上げてくる何かを必死に押さえ込んだ。
『葛葉ちゃん、使おうか』
過呼吸になり、目の前の緋月を見上げていた時だった。頭の中に直接声が掛けられたのだ。
その声の主は当然葉加瀬である。
「は、はぃ……」
痛みに堪えつつ、届きもしない返事を返してから葛葉は深呼吸をして、歯を食いしばった。
「『死を思え―――ッ‼︎』」
かのスキルだ。
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