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三話 吐露する本音

今日は早めで!

 特訓の時間はいつも昼過ぎに行われる。それはなぜかと言うと特訓が始めたてだった頃、緋月が特訓後の葛葉の諸々を堪能したかったらしく、今もその行為が続いているからだ。

 かいた汗をギルドの風呂で洗い流すのだが、汗をかくのは決まって葛葉と緋月だけだ。故に好き放題されるに決まっている。

 全身という全身の匂いを嗅がれ、手で触られる。臀部も胸部も鼠蹊部も、何もかも。

 だが一昨日からその行為がないのだ。緋月の表情も曇っていた、が大体想像はついている。


「……はぁ」

「どうしたのじゃ? 暗い顔しおって、律と五十鈴が不安がっておるじゃろうが、シャキッとせんか」

「じゃあ降りてよ」


 葛葉がため息を吐いたことに噛みついてきた鬼丸は、ただ今絶賛葛葉の背中の座り心地を堪能中であった。

 シャキッとしろと言われても、鬼丸が邪魔なのだ。


「だが断る。……あやつとの特訓、何か掴めそうかのう?」

「ん……」


 一昨日から行い始めて未だ何もだ。相も変わらず弱いままなのだ。緋月のせいでも誰かのせいではなく、自分のせいということはハッキリしている。

 あんな事が起きたにも関わらず、強くなれない自分。ひたすらに頑張らなくてはいけないのだ。

 だが強くなってはいないと言っても、一つだけ掴んだものはあった。


「『死を思え(メメントモリ)』の暴走が起きなくなった」


 死を思え(メメントモリ)は使う度激情に駆られ、何もかもが恨みと殺意の対象となってしまう。

 だが特訓の成果か、激情を押さえつけ、冷静にスキルを使えるようになりつつあったのだ。


「ほう……あのスキルは強力じゃからのう、理性を保てて使えるならば、うぬはもっと強くなるじゃろうな」

「強くなれてるかな……」

「なれてるはずじゃ、なんせ日に日に痣が酷くなっておる。……努力の証じゃろう?」

「ありがとう……鬼丸」


 自信のない葛葉の声に、鬼丸は優しく声を掛けてくれた。想像で治すことは容易だが、それは苦労したことを無かったことにするようで、葛葉は絶対にしなかったのだ。


「今日もじゃろう? あのガキは確かに強いからのう〜、盗めるものは盗んどくべきじゃぞ?」


 鬼丸が葛葉の身体から降り、頭を優しく撫でながら元気付ける。

 そんな鬼丸の優しい声と優しい撫で心地に、葛葉は目を瞑った。鬼丸の小さな手から伝わってくる熱が、今までのどの暖かさよりも、暖かった。


「頑張る、鬼丸。……強くなるために」

「……うむ」


 頰を緩め励ましてくれる鬼丸に、自分の心意気を自然と呟いてしまうのだった。

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