十一話 近代兵器は異世界でもちっと通用する⁉︎
手榴弾は万能!
剣戟の音が森に響き、モンスターの断末魔の後直ぐに、モンスターの咆哮が轟く。
ここは不帰の森とは反対の所にある森。名を魔森林と言う。名称の由来は単純で、モンスターが大量に湧いて出るからだ。
しかも奥に行かない限り強いモンスターは出てこないので、初心者向けの鍛錬場みたいな物になっている。
モンスターの量が量なので連戦が続き、その度に得られる経験値も増加する。
「おぉ〜!」
葛葉がここに来た理由は律の戦闘能力、もとい強さの確認だ。そして、葛葉は律の予想よりも高い戦闘能力に感嘆の声を上げた。
Lv.1の中級モンスターを難なく撃破し、モンスターの包囲網を力ずくで突破した。
そこからは崩れたモンスターの群れの中へ飛び込み、あの刀で次々と斬り、斬り、斬りまくる。
「いや〜流石はオールランダー」
「どーでーすかー‼︎」
見事な立ち回りで、モンスター達を一掃した律はモンスター達の屍の上でVサインをしながら、葛葉に手を振ってくる。
側から見れば狂気としか言いようがないが。(頭から血を被った律は正に狂戦士のようだ)
「とりあえずは分かったよー! んじゃまとりあえずギルド帰って、戦う時の役割決めしよかー!」
「はーい!」
遠い所にいる律にそう呼び掛け、葛葉はモンスターの屍の下へ歩み寄る。
この世界はゲームとかじゃ無いため、クエストが完了したら自動でモンスター素材等をゲットでき無いのは当たり前で、いちいち剥ぎ取ったりしないといけない。
まぁ大抵はそうなるのだろうか。
「しっかし、この量剥ぎ取るとなると面倒っちぃな」
「大丈夫ですよ! 私も手伝いますから!」
葛葉がモンスターの素材採取用のナイフを取り出し、頬を引き攣らせながら呟くと、モンスター達の屍の上から降りてきた律がそう提案してきた。
「……素材採取用のナイフって持ってるの?」
「……? 何ですか、それ?」
「ん〜……あっ! でも、その刀って刃こぼれもしないし錆もしないし折れもしないんだよね?」
「え、はい。そうですよ」
葛葉は本音を言うと律がナイフを持っていないのは大体予想できていた。……何故って? それは律が昨日冒険者になった甘ちゃんだからだ。
葛葉がこのナイフを知ったのも半月前。その間は自前のナイフを使っていた。
「じゃ、その刀で素材採取してみてよ。上手くできるかどうか分からないけど……」
「任せて下さい! まずどう――ッ!」
律が鞘に収めていた刀を抜き、モンスターへと近づき素材採取を行おうとし、やり方も知らない律が葛葉にアドバイスを貰おうとして手が止まり、声も止まった。
そして律が後ろを向き額から汗を一雫流し頬を伝い地面に落ちる。
「ん? どったの?」
葛葉が律の表情と雰囲気に気付き、声を掛けるも律は森の奥に視線を向けて警戒心を剥き出しにする。
葛葉も律の視線の先、森の奥に目を向けるが何もいない。魔力探知にも何も引っかからない。
「律?」
「……葛葉さん。このモンスターって特緒なんですか……?」
視線は森に置いたまま、律は葛葉に唐突な質問を問うてきた。その質問に葛葉はモンスターの屍を見て、十数秒思考して思い出した。
このモンスターの名は『グルードッグ』という名だ。由来はかなり安直で、日本語で言うと集団犬という。
常に集団で行動をしたり、狩りをする。そして……。
「仲間を殺されたりすると、必ず報復しにくる……」
そこで葛葉は遅過ぎるがやっと気付いた。こんなにド派手に殺り合って、仲間を虐殺するように殺したのだ。
仲間意識が高い『グルードッグ』が怒り狂わない方がおかしい。
「……感覚で何体くらい居る?」
「今の二、三倍でしょうか……」
「今の二、三倍って……五十か七十ってことだよね?」
「はい、そうなりますね」
葛葉はグルードッグの屍を見下ろし、
(ヤッベー‼︎ やっちまった‼︎)
と心中で嘆く。確か緋月もグルードッグと接敵したらすぐさま逃げろと、面倒臭いからと、言ってた。
完全に喪失してた。
この状況で大量のモンスター相手に出来るわけない! チート能力でも持ってれば余裕だろうけどな!
葛葉は素材採取用のナイフを仕舞って、律の襟首に手を伸ばす。
「ま、任して下さい! 楽々倒してあげま――!」
と律が意気込み、刀を構えたと同時にグルードッグも飛び出してきたが、それはもう既に遥か遠く。
律は目がその場に残ったような感覚に陥った。さもトムとジェリーのように。
そしてようやく今の状況を理解した。
自分の服の襟首を掴まれて、物のような扱いで葛葉に引っ張られているのだった。
「お、おぉ! 葛葉さん! 凄く速いですよ!」
律は景色が流れていく光景に、何故生身の葛葉にこんな芸当が出来るのかなんて一切聞かず、葛葉の繰り出す全力ダッシュに驚き、褒めるだけだ。
「舌噛むよっ!」
走っている葛葉はベラベラと喋る律へ声を掛ける。地面に段差が無い訳がなく、それに生身の足で走ってるのだ。下手に喋ったら本当に舌を噛んでしまう。
が忠告が聞こえていないかのように律は、わはは〜凄〜い‼︎ と呑気なことを言う。
「あっ! 葛葉さん!」
「何っ!」
後ろに向けない葛葉は、何か焦ったような口調の律へ何事かを聞く。
律は指を森の方向に差し、
「不味いですよ! さっきのモンスター達が……!」
「――くっ!」
大量の犬の群れに驚愕を浮かべた。
それを聞いた葛葉はさらに加速し、グルードッグから少しでも離れようと努力するが、所詮は人。
犬と人との本気の全力ダッシュの持久走があれば、人の完敗に終わる。今がそれだ。
「……こうなったら!」
悪態を吐きながらも葛葉は創り出す。一気に大量にとは期待しないがやらないよりやって損した方がいい。
創造した掌サイズの物を握りしめ、覚悟を決める。
「律っ! 絶対動いたりしないで!」
「えっ、は、はい!」
律にそう言うと葛葉は全身の力を脚に込め、止まるが猛スピードで走っていたせいでちゃんと止まれないが、それが葛葉の狙いだ。
襟首を掴んでいる手に力を込めて、身体を遠心力を利用し回転させ、片手に持った物をグルードッグ達の元へ投げつけた。
「おらーっ! 犬は犬らしくっ! そのおもちゃで遊んでろー‼︎」
そう葛葉が叫んだ瞬間、爆風と鼓膜を直で叩いてきているような感覚が葛葉と律を襲う。
葛葉は倒れることなく、ちゃんと立ち止まり、また走り出す。
後ろではもろに爆風や熱風を喰らったグルードッグ達が怯んだり、逃げ回ったりしている。しかも何体か死んでいる。
「く、葛葉さん!? 何投げたんですか!?」
「んー、律には分かんない物っ!」
律の質問にちゃんと答えない葛葉。そんな葛葉が投げたのはお察しの通り、手投げ手榴弾だ。
読んでいただき、ありがとうございます!
手榴弾、閃光弾は便利!