十話 戦いは一瞬に
漫画とかの戦闘シーンってカッコいいよね。
緋月の目には葛葉が消えたように映った。
(早い……)
Lv.1の時点でこの速さ。葛葉の敏捷の数値はかなり高く、スピードで翻弄するタイプな葛葉にとっては理想的な敏捷の数値なのだ。
スピードで翻弄すると言っても、同等の相手のみだが。
緋月が木剣を後方に振るうと、案の定斬り掛かってきた葛葉の攻撃を防ぐ。木剣と木剣がぶつかり合う音が響く。
「クッ!」
葛葉が木剣を握る手に力を込め、緋月に隙を生ませるために木剣を振り払おうとするが、全く動かない。
緋月は片手に対して、葛葉は両手だ。それなのに押し切れない。押し切るどころか徐々に、葛葉の方が押されている。
「――ッ!」
一か八かの賭けに葛葉は出た。片手を身体に隠すようにし、木剣から離す。そして直ぐに葛葉の体で隠れているが、光が放たれる。
緋月はその光景に目を細めるが、無視し勝負を付けるために葛葉の木剣を弾き飛ばそうかと考えていた時だった。
パン! パン! という耳をつん裂くような乾いた二回の音。おおよそこの世界では聴けない音が響いた。
「――ッ!」
二発の銃弾は緋月に当たることはなく、地面に痕を残すのみだ。緋月の背後に小規模な土埃が立ち昇る。
銃弾を撃った人物、葛葉の片手には拳銃が握られており銃口からは煙が上がっていた。
「まず――ッ!」
また引き金に指を掛ける葛葉を後方に吹っ飛ばす。が、葛葉は綺麗に着地し直ぐに立て直す。銃を捨て、木剣を生成させる。
そして僅かな隙が生まれた緋月へ、確かな一撃を繰り出そうとして、視界が反転した。
「――ぇ? わ、ぶへ!?」
そのまま走り出した勢いで顔から地面に衝突した。
何が起きたのか葛葉には理解できていない。緋月へ最後の一撃を与えようと走り出したのはいいとして、その時はまだ十メートルくらいの幅があったはずだ。
それなのに何故、緋月が立っていて葛葉が倒れているのか。
「……??」
「ふっふっふ。これがギルド長の力だよ!」
えっへん! と胸を張る緋月に葛葉は反応することもできずに混乱していると、手を叩く音が聞こえてきた。
「はい、そこまで」
とストップの声掛けをしたのは葉加瀬だ。葉加瀬は葛葉と緋月の間に立ち二人を静止させる。やっぱりギルド長なだけあって、そう簡単に一回目では勝てないか。あれでもちゃんとギルド長だもんな。
「ま、今日は試しに戦ってみたけど……まぁ中々な機転だったよ」
「そうですか? 負けちゃってるのに?」
「そんなのは結果論だからね〜。何事も諦めが肝心とはいうけど、次こそは! っていうのも大事だからね」
「そうなんですかね」
真面目な緋月に少し調子を崩してしまうが、葛葉はこれは緋月なりのアドバイスなのだと信じてじっくりと聞く。
何事も諦めが肝心とは言わない。人生にとっては諦めも、がむしゃらに争うのもどっちも正解だろう。でも、前世の人生は諦めしかしなかった……。
諦めて辛い思いをするのなら、抗って辛い思いをする方がとてつもなく楽だろう。
「じゃ、明日からは本格的な特訓だよ。今日の先頭を踏まえて、葛っちゃんに足りないものを補おう!」
「はい。改めてお願いします」
葛葉はそれはもう、大変良い返事を緋月に返した。
読んでいただき、ありがとうございます!
戦闘描写はかなり文字を書きますね。ですが、迫力のあるバトルを書けるようになりますよ!