二十話 憤怒のスイッチ
一応ですが、かなりのグロテスクな表現があります。耐性がない方は、心して読んでください。
「―――鬼代葛葉。以前の英雄とは比にならないほどにイカれてるな」
そんな二人の戦いを眺めているだけのヴィルトゥスはそう口にした。前英雄は取り零してしまうことが多々あった。
だがそれを反省し多くを救うよう成長していったのだが。葛葉は全く違ったのだ。
犠牲は出さない。葛葉はただそれだけ、本当にそれだけを目指すために戦っているのだ。
故に自分が傷ついてでも目の届く範囲の人間を救うために戦うのだ。まさに愚か者だ。
理想だけしか頭にない愚かで醜くて傲慢で、わがままな子供だ。
「だが、強さだけは認めれる。捨て身の攻撃故にできる技が多くあるのが厄介だ」
だからそれ故に強いのだ。
強者に争う者に相応しい心意気だった。
(もう、ここまでで良いだろう)
強い、強すぎるのだ。アニムスでは苦戦になるだろう。だから当初の目的である撤退を選ぶのだ。
ヴィルトゥスがアニムスに近づこうと一歩踏み出した時だった、ホワンと上空にホログラムのような物が浮かび上がったのだ。
戦っていた二人も足を止めそれに注視する。アニムスが何かに気が付くと、いつものような気味の悪い笑みを口が裂けるほど口角を上げて浮かべてみせた。
「ここからが本番ですよ」
「……なにが」
アニムスの言葉に葛葉が怪訝な表情を浮かべた。その時だった、ホログラムからアニムスの声が聞こえてきたのは。
『あー、あ、あー。聞こえてますかねー』
葛葉とヴィルトゥスがアニムスを見やるが口は少しも動いていない。
だとするとあのホログラムからしか考えられないのだ。
「キヒヒ」
『オッホン……それではチキチキバンバン、生意気なメスガキをぶっ殺そうのコーナーぁスタートでーす!』
画面いっぱいにアニムスの顔が映ったかと思うと次には、ふざけた事を抜かしだす。
そして映像が動き映し出されたのは、四肢をひしゃげられ身体中が斬り傷に埋め尽くされた短髪の美少女。が両肩に剣を突き刺せられ木に留められている映像だった。
言われるまでもなく、葛葉は気が付き戦慄した。
いや、葛葉だけではなかった。戦場で戦う衛兵や五十鈴達、仮設テントから外の様子を見ていた避難民。そして森を抜け、走り続けていた馬車に乗っている避難民達、それら全員が戦慄した。
なぜなら皆、見覚えのある人物なのだから。
『はい、パチパチ〜。頑張って幹部を相手にしてたけど、やっぱり負けちゃってね〜こんなことになったんだ〜ケヒヒ』
おかしそうに、腹の底から笑っている声。
『……はぁ直ぐ殺しても面白くねぇから、ゆっくり殺してやるよ。誰のせいで死ぬんだろうね!』
キュルルンと冷酷な声音から、ぶりっこのような声音に。
そして映像が動く、映像の中のアムニスがカナデが愛用していた刃毀れだらけの短刀を持って、カナデに近付いていったのだ。
そして腹に突き刺しグリグリと腹の中を剣でかき混ぜ始めたのだ。
『があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』
そんな痛々しい悲鳴がはっきりと聞こえて来る。
『ケヒヒ! 良いねぇ! わかってるねぇ!』
醜い笑い声の主が手でカナデの顔に触り――やめろ――頬をなぞっていき、そして目へ指が着くとガシッと眼窩に指を突っ込み、一気に目玉を引き抜いた。
ブチブチと筋肉が千切れる音がハッキリと聞こえてきた。そしてまたカナデの悲鳴が。
「やめ……て」
『ケヒヒ、初めて目玉引っこ抜いたー! うーんブヨブヨしてるねーw。あぁむ、お、珍味だね〜でも不味いや……ペッ』
ニギニギとおもちゃのように遊んで、次は口の中に入れガミガミと。最後には口から吐き捨て、味のしなくなったガムのように扱った。
『さ、殺そっか』
先程までの明るい声から一転して、冷徹な声が流れた。腹部に突き刺さっていた短刀を引き抜き、心臓目掛け振り下ろした。そしてグリグリと。
ついにはカナデも悲鳴すら上げなくなり、小さな声で「痛い」と壊れた機械のように呟き続けるだけだった。
『ギャハハw。面白ろ―――』
そこで映像を映していたホログラムは消えた。
「ぐぼぅえぁ―――!?」
あのホログラムはアニムスの魔法だったのであろう。ホログラムがなぜ消えたのか、答えは明白。
アニムスの顔が変形するほどの力で殴られたからだ。
「……へ、へぁ。ヒヒヒ、やっと本気出したか……!」
剣を構えアニムスが葛葉に向き直った。
だが葛葉はコツコツとゆっくりと歩いて来る。そんな葛葉に気色の悪い笑みを浮かべて斬り掛かったのだが。
グンッと身体が腕へ引っ張られ見てみると、葛葉が剣を鷲掴みにし掴んでいたのだ。そして次は葛葉の方へ引っ張られ顔面をまた殴られる。
「ぐぶぅば‼︎」
情けない小さな悲鳴をあげるアニムスはみっともなくも涙目だった。
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