十八話 冠を頭に
「『日輪の冠をッ―――‼︎』」
ドンッ、葛葉の詠唱が終わると同時、その場の生命皆が葛葉に頭を垂れた。と言っても葛葉よりも弱い生命のみだが。
それでも【紅焔凱―光冠―】は魔王軍幹部が目を見張る物だった。
「ケヒヒ! お前本当にLv.2かぁ⁉︎」
木に着地し、冠を頭に乗せた葛葉へアニムスの身体が飛んでいく。
剣を突き出し葛葉の顔を剣で風穴をあけるつもりなのだ。だが葛葉はそれを避け、空中にて回避できないアニムスの腹へ膝蹴りし、そして背骨へ踵落としを見舞いした。
「……っ。ふぅ〜……」
ピキッと真顔だった葛葉の表情が崩れて、ブワッと汗が噴き出てきた。
スキルの連発と最大出力の魔法の維持で、葛葉の身体が悲鳴をあげているのだ。
(これじゃまだまだ手温いかも……アイツ、結構頑丈だ)
「あ〜肩凝りに効きますねー」
あの一撃をくらい立てる時点でダメージにもなっていないと、葛葉には分かっていた。普通なら背骨が折れている威力というのに。
「……全く、あなた達は本当に化け物ですね。リリアルもあなたも」
「い〜や〜、リリアルの方が強いよ、言っとくけど」
魔王軍幹部で一番記憶に残っているのはリリアルだ。鬼族の里を襲撃し、殺戮の限りを尽くした少女。
一人だけでも十分強いのに、あの化け物まで共に攻めてきたのだから、流石の鬼族でも勝てなかったそうだ。五十鈴の有り余る魔力と、『葛葉』の戦闘センスが上手くハマっただけで、ただの運だ。
「アイツ、今鍛えてるって。ケヒヒ、次会ったら殺されるね〜……お前は今日ここで死ぬけど」
「つまらない冗談。私が死んだら、避難民が死んじゃうでしょ」
先程までのピリピリとした空気が戻ってき、二人の殺意が高まっていく。
その二人を眺めていたヴィルトゥスが冷や汗をかくほどに。
何故なら側から見たら二人のオーラが、虎と龍のように見えるからだ。
「勝つ気でいるのか、ククク。滑稽だなぁ」
「どうしたの? ビビってないで早く来なよ、それとも怖くなった?」
「死ね」
煽り性能が高すぎる葛葉の顔目掛け、無詠唱の『石弾』が放たれた。のだがそうくると思っていた葛葉にとって避けるのは容易だった。
魔法のおかげで土煙が舞い、葛葉の身体がその中に消えていく。第二射の魔法を放とうと手を突き出した時。
バンッ! バンッ! と二回のみならず何回もそのような音が鳴り響いたのだ。
アニムスの掌に風穴が開き、腹にも首にも風穴が空いた。本当に一瞬のことに驚き固まっていると、葛葉が土煙の中から飛び出してきたのだ。
「『石弾―――ッ‼︎』」
急いで第二射を詠唱し、石の弾丸を飛ばした。
だが葛葉の身体には一つも当たらなかったのだ。身体を細めているせいなのか、一発も。
それなのに、葛葉の放つ魔法ではない何かは確実にアニムスへダメージを与えていた。
「なんだ……これ」
魔王軍幹部であるはずの自分が押されている。その事実にアニムスの感情が怒りで昂ってしまった。
「死ね……死ね! 『石弾―無慈悲の弾丸――ッ‼︎』」
「―――っ!」
展開される魔法陣の数に葛葉が足を止め息を呑んだ。
アニムスの身体の左右上下360度死角などなく、そして無差別に石の弾が放たれた。
読んで頂きありがとうございます!!
面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします!!