十六話 絶望を噛み締めて
かなり遅れてしまいすいません!
―――ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなっていくのがわかる。理由としては目の前の存在のせいだった。
ことは数分前まで遡る。
敵味方入り乱れての乱戦で、カナデはとても活躍していた。持ち前のスキルの撹乱要素が強いのが理由だ。
敵を欺き味方を救い、故郷の住人たちを守る。このスキルならば出来ると、カナデが確信していた時だった。
「キヒヒ、そのスキルは厄介ですね〜」
「……ッ⁉︎」
森の暗闇から出てきた黒い外套を着た男に声を掛けられたのは。
そして今に至る。
相対しているだけで発汗と過呼吸が自然と起きてしまう。足も震え、奥歯もカタカタと音を鳴らしてしまう。
「私は魔王軍幹部――『謀略の使徒』アニムス」
「―――ぇ」
一瞬、自分の耳を疑った。
男の放った言葉、魔王軍幹部。第一級冒険者でも苦戦を強いられ、激闘の末辛勝できるかどうかという化け物。
そんな相手が今、自分の目の前にいる。
「キヒヒ、あなたの絶望もいいですが。やはり、あっちのほうが見てみたいものです」
「どう……ゆう、意……味?」
「ケヒヒ、私のスキルの一つ『分身』で、私は今、あなたと英雄の目の前に立っているんですよ」
再びカナデは耳を疑った。
そしてこうも思った、どうして自分なんだと。
そんな考えが脳裏を過ったことに気が付き驚いた。が頭を振って気合いを入れ直した。
「スキルということは疲れもします、そして分身なのですから強くも無いはず……。だから」
「だから……なんです?」
「私は村の人たちが森から抜けれるまでの時間を稼ぐ!」
そんな意気込みを叫びながらカナデは目の前の"弱くなっているであろう『分身』"に飛び掛かった。
直ぐに『分身』が解けぬように。
「―――ケヒヒ、これだから能天気バカは」
アニムスのその小さな発言にカナデが反応するよりも早く、携えていた剣を引き抜いてカナデへ攻撃した。
一振りだ、一振りのはずが、アニムスとすれ違い地面に着地したカナデの身体から、大量の血が噴射した。
身体も顔にも無数の切り傷が出来ており、夜空のように綺麗な長髪は短髪となっていた。
「……つっ。女の子の命を二つも……男が廃りますよ」
「ケヒヒ、安心しろぉ三つ目も今切り刻んでやる」
傷だらけの顔に手を当て、乱雑に切られた髪に目を向けて、痛々しい身体の事を置いて、相手を挑発してやった。
だが安い挑発には乗ってもらえず、直ぐにアニムスが動いた。
(どうやら『分身』しても、この男の強さは劣らない……)
油断してしまった、英雄譚の読み過ぎで変な知識だけ持っていたらしい。と自分の至らなさに失笑してしまった。その隙を狙ったアニムスの奇襲攻撃が迫っているというのに。
勝負あったと確信したアニムスだったが、目の前の光景が変わった。
「……使ってきたか」
戸惑いも焦りも感じさせず、直ぐにあの少女のスキルだとアニムスは見破ってしまったた。
その直後、頭にゴッと何かが当たった。振り返ると視界の端には地面に落ちていく小さな石ころがあった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
さぁ、カナデは幹部相手に勝てるのでしょうか⁉︎
戦いの行方は勝利の女神のみぞ知る……。ってね。面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします‼︎