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十五話 命を賭しても

「まぁこんな無意味なことしてても意味ないですからね、私共の目的は【英雄】……そこのガキと戦うだけです。他の雑魚は要りませんよ」

 

腹部を貫かれもう既に瀕死の重傷である葛葉を指し、他二人はシッシッと虫を払うように手を振ってきた。

 二人は少しだけ表情をピクつかせたが、剣を鞘にしまった。


「おぉ良かった良かった……。キヒヒ、このまま戦うなんて宣ってたら、この場の全員殺す所でした。キヒヒ」


 ホッと胸を撫で下ろし、そう恐ろしい事を後から言う外套の男。

 葛葉の腹部を貫いていた土の塊が消え、ドサッと身体が地面に勢いよく落ちてしまった。

 衝撃によって腹部へ激痛がやってきてしまい、葛葉は少しだけ涙目になってしまった。


「くっ……。……す、すいません。私をここに残し……て下さい」

「ば、何を言って⁉︎」


 傷を『想像』で元通りにした葛葉がまだ感じる痛みに言葉を詰まらせながら、二人に願いを言い頭を下げた。

 青年は予想通りの反応を示し、ハイダは無反応だった。


「あくまでも狙いは私です……ですから避難民の皆さんは、私が足止めしている間にここから離れられます」

「誰かを犠牲にするなんて!」

「犠牲無しじゃ、救えるモノも救えません」


 葛葉の提案を却下する青年に対し、葛葉は負けじと反論した。自分以外が犠牲になるのなら葛葉も反対だが、自分が犠牲になると言うのなら大賛成だ。


「行って下さい……」

「だ、だけど」

「行って下さい……!」

「くっ、分かった、無理はしないでくれ‼︎」


 葛葉の圧に押されてしまい、青年は渋々馬車を出発させるように竜車の御者の下に走った。

 ハイダは最後の最後まで何も言わず何も反応せず、青年と同様に馬車の下へ向かっていってしまうのだった。


「さぁて、それじゃあ馬車がどっか行くまで待たねぇとですね」

「意外ですね」

「キヒヒ、意外ってことでもないさ。馬車がない方が本気……出せるんだしょう?」


 問答無用で飛び掛かってくるかと思ったが、ちゃんと葛葉のことを思っているらしく、先ほどまでの緊張感がどこかへと抜けていってしまった。


「ん、動き出したな」


 先頭の竜車が走り出しその後ろを二台が着いていった。

 もう一人の男、軍服の軍人が目を細めそう呟いたと同時、外套の男が葛葉に飛び掛かった。

 姿が掻き消え一瞬見失ったが、一ミリも隠そうとしていない殺意のおかげで直ぐに動けた。


「ぐ……うぅ」

「キヒヒ、止めれただけでも脱帽ものですよぉ!」


 咄嗟な動きにホルスターからナイフを取り出すのは無理と判断した葛葉は、創造で二本創りナイフを交差させ攻撃を防いだ。

 紙一重のタイミングで超絶ギリギリセーフだった。


「ですがぁ、勝てるわけないですもんねぇ!」

「……くっ、うぅ。そんな、驕ってるくせに……」


 顔を近づけてきてこれでもかと煽ってくる男に、葛葉は鍔迫り合いをしながら軽口を吐いた。

 鍔迫り合いは直ぐに終結することとなった、ナイフの握る力が一瞬緩んでしまったのだ。


「くっ―――!」


 男の剣が葛葉の身体へ縦に一閃、深く斬り裂かれ血が溢れ命が溢れていく。


「キヒヒッ」


 男は頬に付着した葛葉の血を舐め取りニヤリと笑った。

 気持ち悪いと表情を歪ませるが、葛葉は冷静に斬撃の傷を『想像』で治し直ぐにナイフを構えた。

 目の前の敵は確かに驕りまくっている典型的な敵キャラだが、実力は本物なのだ。一瞬の隙が命取り。


(本気で……行こう)


 深く息を吸い長く吐いた。

 これから葛葉は無謀な賭けにでる、だから極限の集中力が必須なのだ。

 スッと気持ちを切り替えて、葛葉はナイフを構えつつ前傾姿勢をとり疾走した。


「ッ」


 男がほんの一瞬だけ葛葉のことを見失い、千載一遇のチャンスが到来した。

 走るスピードを上げ勝負を一瞬で決めに掛かる。

 つもりだった、


「キヒヒ、無駄な足掻きだ……笑えるぅ」


 ボコ、ボコボコボコと男の呟きと同時に、葛葉の目先の地面が膨れ上がった。

 そしてまた、あの土槍が地面から飛び出した。先程よりも大きさも威力も増して。

 葛葉は咄嗟に回避し、その後も回避し続けながら距離を詰めていく。


「穿つがいい『石弾(ロックバレット)』」


 短い詠唱で放たれる魔法。男の周囲にあった石が浮き上がり、男が手を突き出す方向に銃弾の如く飛んでいった。

 それらの弾は葛葉の腿を、脇腹を、腕を、首を、耳を、目をと広い範囲でダメージを与えた。


「ぐっ……⁉︎ ぁう」


 情けない声が漏れ出してしまうが走るのを、葛葉は決してやめなかった。


「なにっ⁉︎」


 全身にダメージを貰った少女はなおも走り続けてきた。その姿に男は初めて後ずさった。

 男との距離が5メートルほどになってから、葛葉は跳躍した。ナイフを逆手に持ち袈裟斬りできるように。

 だがやはり相手の方が一枚上手だった。


「くっ!」

「っ」


 葛葉の攻撃は男の身体を掠る程度、それに対して男のカウンター攻撃は、葛葉の両足の腱を切り裂いていた。

 地面に手から落ち不細工な着地をして、四つん這いのまま顔を上げた。ボタボタと男の身体から血が流れた。


「く、やってくれたなぁ」


 よく見てみると、男の小指が第一関節の所で切れていたのだ。

 小指の先も地面に落ちている。男は指を治癒魔法で止血した。


「……英雄。名は」

「……? ……鬼代葛葉、あなたは?」

「魔王軍幹部『謀略の使徒』アニムス」


 すっかり忘れていた英雄の名を聞き、アニムスは顔つきを変えた。今はもう先程までのような薄ら笑いの似合うような顔ではない。

 二人は命の掛かった戦いを、今からするのだ。

 先程までのはおままごとと一緒だ。だが今からは違う。

 覚悟を決めた同士、真剣な顔つきで身構えた。

 ……そして、


「『紅焔鎧―――ッ‼︎』」


 葛葉がそう叫ぶと同時、アニムスの姿がまた消えた。

 その直後、ガキィィンと森全体に響き渡るような金属音が上がるのだった。

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