十話 あと少しで
バタバタと相変わらず慌ただしい足音がどこからでも聞こえてきた。
見張り台が壊されたが、まだまだ進軍中の魔王軍との差はかなりあったようで、直ぐに避難が開始された。
住人達が次々と馬車に乗り込んで行き、着々と準備が進んでいっていた。
「カナデさん……大丈夫ですか……?」
避難が完了するまでの間の護衛を任された五十鈴達は武器、防具の最終点検を行って居た。
その最中、律が暗い顔のカナデへ声を掛けた。
「……だい、じょうぶです」
「ぁ……そうですか」
聞いてはみたが、律に人を励ますなんて器用なことはできず、返す言葉もなく無言で刀の点検を再開させるのだった。
(……不安ですね)
このような雰囲気では戦いに支障が出てしまうのではないのかと、五十鈴は二人のやりとりを眺めながら思うのだった。
「――おーい嬢ちゃんら〜、もうそろそろ準備が終わるぞ〜」
その時だった葛葉達と共にこの村にやってきたままの、竜車の御者の人が五十鈴達にそう声を掛けてきた。
このまま順調にいけば、村民達は問題なく村の外へと逃がせられる。
「衛兵長ってぇ人がこっから警戒態勢に入るっつてんだ、衛兵と冒険者はよ、馬車を背にして戦闘体制ってよ」
「はい、そうですか、わかりました」
伝えにきてくれた竜車の御者の人に感謝をして、五十鈴達は武器を手に持ち馬車へと向かうのだった。
仮設テントの隣では避難用馬車と竜車が止まって居た。馬車はニ台、竜車一台の合計三台。
一台十人が限度であり、この村の元の住人の数は200人以上。その大半が女子供であり、残りは若い男と老人ばかりだ。
だが先ほどの無差別攻撃によって村の住人の七割が死滅してしまった。
「女性や子供を優先的にしても……こんなに残るんですね」
「ここに残る方達を守るのが私たちの仕事ですよ、律様」
「う、うぅ……ですよね。……はい! 私、頑張ります!」
五十鈴の言葉を聞いた律が、不安な気持ちを感じながらもどうにかやる気を引き出した。
「後どのくらいで出発だ!」
「後十分ほどでいける!」
「もっと早く出来ないか⁉︎」
「無理だ! なぜか馬達が動こうとしないんだ!」
五十鈴と律がそんな会話をしている傍らで、衛兵達がそんな会話をして居た。
律と話ながらもきちんと衛兵達の話を聞いて居た五十鈴は、今敵が来た場合について考え込んでいた。
(十分、ここにいる全員で守れるでしょうか……)
最悪全滅してしまうだろうが、今最前線にいるのは絶滅戦争初期に暴れまくった最強の巫女なのだ。
魔王軍の兵士たちがここに来る頃には大半が地面に伏すことになるだろう。それか大怪我。
「……葛葉さん」
今ここには居ない、五十鈴が最も信頼する葛葉を思い浮かべた、その時だった一本の矢が飛んで来たのは。
五十鈴の頬を掠り後ろの馬車へそのままの勢いで突き刺さった。
「……これは」
「―――敵襲ッ‼︎」
五十鈴が飛んで来た矢を見ていると衛兵の一人が、大声で敵の襲撃を全員に知らせた。
「ッ!」
律の表情が引き締まり、衛兵達が揃って剣を構えた。
それから数分もせずに、一斉に森の木々の間から魔王軍の兵士達が雄叫びを上げながら飛び出してくるのだった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
一応、書き溜めしてるんですよねこの小説。深夜に描きまくったり、日を開けて書いたりしていると割りかしミスが多いので、見つけても何も思わず見過ごしてやって下さい……。
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