九話 伝説は実話に
かなり遅くなっちゃいましたね……。
「おい! ここだ! この下にいるぞ!」
「何だって! 早く助けるぞ!」
その声と近寄ってくる音を聞きながら、葛葉は再び家屋を持ち上げようとする。
しているとふっと家屋が少しだが軽くなり、男性が顔を覗かせてきて声を掛けてきた。
「おい、あんた! 大丈夫か⁉︎」
「……ぅ、はい。私は大丈夫です……だから先に、この子を」
とガタイの大きな男が抜け出せそうなほどの穴が出来て、そこから鎧を身に纏った兵士っぽい男が腕を伸ばしてきた。
葛葉がルナを抱き寄せ男に預けると、外から「もう限界だ!」と言う声が聞こえてきたため、すぐに葛葉も抜け出した。
「はぁ〜……助かりました」
「いや、助けが遅くなってすまない。それよりあんたは……?」
「——? んー、あぁ。はい、冒険者です」
助けてくれた男性の問い掛けに、葛葉一瞬だけ戸惑いが生じたが周りの光景を見て直ぐに、これまでのことを察して首を縦に振った。
「冒険者‼︎ ……ぜひ! 我々と共に戦ってもらいたい!」
「……?」
その男性の気迫に、かなり切羽詰まった状況なのかと思い、葛葉は衛兵が開放しているルナを一瞥して口を開けた。
「分かり、ました。……その前に、その子を安全な所までお願いします」
「はい! 任せて下さい!」
「お願いします」
まだ意識が戻らなそうなルナ、葛葉は改めて衛兵達にそう頼んだ。
そして自分は、
「あんたはどうするんだ?」
武器を装備し戦う気満々の葛葉に一人の衛兵が声をかけた。
「私は先に向かう」
「あんた一人でか⁉︎」
一瞬の逡巡の後に葛葉が呟いた言葉に驚き、衛兵の口がぽかんと開けたまま閉じなくなってしまった。
魔王軍の一般兵の最低レベルは3。それを知っているからの反応だ。
「無茶だ!」
「……ん」
諭すように肩を掴んでくる青年の衛兵。
掴まなければ今すぐにでもすっ飛んでいきそうな葛葉は、鬱陶しいと思いつつ少し考え青年の顔を見てからルナを預けた方の衛兵達を一瞥した。
そして青年の手首を掴み返すと、バッと走り出すのだった。
「は、ちょ⁉︎」
「案内して」
よくよく考えてみれば葛葉はこの村の地形なんて知ってすら居ない。
だから知っているであろう青年衛兵に道案内をさせるのだった。
「案内させたいんだったら、あんたは前じゃないだろ!」
と的確なツッコミを言う青年衛兵に頼りになりそうと思うのだった。
――暗い森林に轟く兵士と兵士のぶつかり合う声。
砲撃の音が聞こえると断末魔が上がり、剣戟の音が聞こえると血飛沫の音が上がる。
魔王軍の先制攻撃から始まった戦いは圧倒的に衛兵達が劣勢だった。
「無駄な足掻きにしか見えんのう」
自分たちのフィールドでのヒットアンドアウェイ。魔王軍の兵士たちはその攻撃よってかなり倒されていた。
衛兵達の被害も少ないがこのままいけば全滅してしまうだろう。
戦場のど真ん中を彼らの戦いを眺めながら悠々と歩いていくが、そんな行為は……
「ここは」
当然ヘイトを買うに決まっている。
魔王軍兵士数人が鬼丸を不審に思い、近くにいる衛兵を無視して真っ先に狙った。
魔王軍の平均レベルは3以上。それ以下は戦場に出されることは絶対にない。つまり一番下の階級の兵士でも中級冒険者並みの実力を持っているのだ。
「わしに任せるがよい———ッ」
そんな兵士たちを複数人相手しながら、鬼丸は片手で振った金棒で首から上を粉砕した。
眼球が宙を舞い放物線を描き、脳みそも飛び散った。地面に血が散乱し、思わず吐くものが敵味方問わず出てしまった。
「ぬしら……早く作戦を終わらすために、ここはワシに任せるがよい」
不敵に笑った後鬼丸は振り返り、顔を青くさせ驚いている衛兵達に声をかけた。
鬼丸の作戦という言葉を聞いた衛兵達はすぐに気を取り直し戦場に背を向け駆け出した。
「さぁ来るがよいのじゃ、魔王軍共よ」
「……貴様! 何者だ⁉︎」
「ワシか?」
魔王軍の兵士たちは一瞬にして鬼丸を囲い、一対複数の構図が出来上がっていた。
その中の一人が鬼丸に向かい声を荒げて聞いてきた。
何者か……と。
今の世代は絶対に知らないその強さ、伝説上の登場人物ほどの認識、それほどまでの者。
「鬼族、最強の巫女……鬼丸じゃ」
『――――ッ⁉︎』
鬼丸を除くその場の全員が言葉を失った。
伝説上にしか居らず、その強さゆえに絶滅戦争中にも関わらず魔族と人族が手を取り合い、辛くも封印したと言われる鬼族の巫女。
そんな怪物が現代に蘇ってしまっていたのだった―――。
読んで頂きありがとうございます‼︎
遅れると言ったもののかなり遅くなりましたね。でずか無事投稿できて何よりです。
面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします‼︎