七話 普段怒らない人は怒ると怖い
朝は眠いですよね
三十分後
「借金取り!? 何で君みたいな……」
「うぅ〜」
バツが悪そうに少女は縮こまる。見た目は完全に中学生だ。葛葉と同じ年齢くらいなので確定で中三くらいの年齢だが。
「……それが色々ありまして。冒険者になるためには、やっぱりここからじゃ無いとダメらしくて……」
「君はどこから来たの?」
葛葉は大体予想が付いているが、質問として少女に聞いた。少女はあっと声を漏らして気付いたらしい。
「わ、私は極東出身の律と申します! 先程は大変ありがとうございました!」
「い、いやいや。……で、どうするの?」
「何がですか?」
おいおいマジかよ。
葛葉は今さっき少女――律自身が言っていた事なのに、すっかり忘れていることに驚いてしまう。
忘れっぽいっても限度があるぞ。さっき行ってから三十秒も経ってねぇだろ。
「借金取りのことだよ。どうするの?」
「……あぁ‼︎ どうしましょう……」
葛葉がハッキリと伝えると、律は頭を抱えテーブルに突っ伏する。そして一頻り頭を掻き毟り、ピタッと止まったかと思ったら涙目でこっちを見てき。
震えた声で問うて来た。
「……どうしましょうって」
葛葉はそんな律にため息を吐き、頬を杖をしながら面倒くさい事に巻き込まれたと思うのだった。そんなこんなしてると、
「お待たせしました、こちら日替わりランチとハムサンドです」
葛葉の前に日替わりランチが置かれて、律の前にまぁまぁな大きさのサンドウィッチが乗っかってる皿が置かれる。
とりあえずは腹ごしらえだ。腹が減っては何とやらって言うし、借金取り達はとりあえず保留で。葛葉がそう思いフォークとナイフを取った瞬間、テーブルがちゃぶ台の如く返され料理や飲み物が散乱する。
「よぉ〜見つけだぞ」
「な、ななな何でここが⁉︎」
美味しそうな昼食を前にニコニコだった葛葉は、まだ状況が読めてないのかそれともテーブルがひっくり返ると言う衝撃の光景を目にしたからか、固まっている。
「いやな、この嬢ちゃんが怪しかったからな。尾けさせてもらったわ。……とりま、面ぁ貸せや」
「あ、あぁ……」
律の顔がサーっと青色になっていき、全てを悟った様な顔をする。葛葉は未だにニコニコで静止している。
「ま、嬢ちゃんには何もしねぇから安心しろや。うし、お前ら行く――」
リーダーらしき男が最後まで言う前に、律を引きずり持ってこうとするリーダーの手の甲にフォークが刺さる。
「あぁ?」
リーダーらしき男は青筋を立ててフォークを投げつけて来た人物を睨め付ける。……それは、律を助けた少女――葛葉だ。
ニコニコの笑顔で静止していたはずの葛葉は、纏う雰囲気が一風変わって、辺りに冷たい空気が漂う。
「おい……ちょっと待てよ」
葛葉が静かに冷然と呟く。その声はいつもの愛らしく、小鳥の囀りの様な声では無く、鬼が宿った様な声だ。顔は俯いており猫背の状態で葛葉は立っている。
「ハッ、ガキがリーダーに何やっ――‼︎」
下っ端が似合う男が出て来たと同時に、男は床に倒れていた。口に大量の食べ物を詰め込んで、白目を剥きながら。
その異様な光景に後ろに控える残りの下っ端男達が騒つく。
「テメェら、食い物を粗末にしたな?」
「あぁ? 何だテメェ、さっきから何言ってやが――ッ」
瞬間、リーダーらしき男の本能が回避しろと叫んだ。そして顔を少しだけずらすと、ドンッ! という音が背後から聞こえてき振り返ると、肉を切る用のナイフが壁に持ち手の所まで刺さっていた。
リーダーらしき男の頬に一文字の傷ができ、出血する。血は頬を伝い床へ滴り落ちる。
「粛清だ。食い物を粗末にする奴は……全員ゴウトゥーヘルだ」
葛葉はギロリと男達を睨め付け親指立てて、首に親指を添えて首を切る動作をした。男達に動揺が走り、葛葉の眼力に怯え震える律。
「……ヘッ、骨がありそうな女だ。相手してやらぁ」
「……」
「ただし、負けたら俺らの肉便器になってもらうけどな‼︎」
リーダーらしき男がそう言うと同時、男達が威勢を戻して笑う。それに釣られて葛葉もホラー映画のような笑みを浮かべ、腰に携えたナイフを抜き放った。
読んでいただき、ありがとうございます!
手の甲にフォークが刺さるなんて……想像するのもやですね