十話 本当のクエスト
楽なクエストになってしまいましたからね
―――数十分後―――
ガタ、ガタガタン、ガタガタ。とあれから竜車の中から聞こえて来る物音に、御者の人はビクッと跳ねて驚いていた。
たまに中から声も聞こえて来るし。
「おっと……もうそろそろだな」
竜車が森の中に入り陽光が遮られ、御者の人は目的地と自分たちの距離が、直ぐそこまでの距離になったことで、中の葛葉達に声を掛けようと小窓を開けた。
小窓を開けて中を覗き込みながら声を掛けようとした時だった、御者の人の目に、男なら驚愕するであろう光景が広がっていたのだ。
「…………っ」
「ちゃんと抑えるのじゃ!」
「あ、あは……あははははは、英雄様ぁ〜♡」
じゅるりと垂れそうになった涎を啜り、口元を自分の服の袖で拭うカナデ。
「す、すいません! ゆ、許して下さい、葛葉さん! 仕方がなかったんです……あの提案は断れませんよ!」
「律様最低……」
「っ⁉︎ 五十鈴さんだって抑えてるじゃないですか‼︎」
軽蔑しきった目で、謝りながら葛葉の身体を抑える律を見る五十鈴。そんな五十鈴もちゃんと葛葉のことを抑えていた。
「……はぁ〜。どうしてこうなったの〜……」
と四人に身体を抑え付けられ抵抗することが出来ない葛葉が、力無く今の現状にそう呟いた。
両腕と両肩を律と五十鈴に抑えられ、カナデに腹部に乗っかられ起きられず、脚を鬼丸に掴まれ一ミリたりとも動かせない状態だった。
そして鬼丸が葛葉の足を○字に開脚させ、カナデと一緒に盛り上がるのだった。
「…………………………お邪魔しましたー」
そんな目を覆いたくなる光景を見て、御者の人は小窓をそっと静かに閉めて、手綱を両手で掴み森の悪路に集中するのだった―――。
―――地竜が嘶くと、ザワザワと広場に集まってきた人々が騒めきだす。
大人も子供も皆んな、広場の中央に居る地竜に興味津々だ。
「……案外着くのが早かったのじゃ〜」
むす〜っと隣にいる鬼丸が不機嫌そうな顔をしながら文句を垂れるのと、カナデが残念そうにため息を吐くのは、ほぼ同時だった。
「嬢ちゃん達、積荷を降ろすの手伝ってくれー」
「あ、はい」
葛葉達が身体をほぐしたり、話していたりしていると、竜車の後ろっ側に回って積荷を降ろそうとする御者の人に声を掛けられた。
一人で降ろしている御者の人を見て、「あ、そういえばそれがほぼクエストだった」と葛葉は思い出した。
「ほら、鬼丸行くよ」
「む〜、そんなことはどうでも良いじゃろ〜? 早く続きがしたいのじゃ〜」
「馬鹿言ってないで、早くして」
不機嫌そうな表情はそのまま、鬼丸は渋々に(怒り出しそうな)葛葉の言うことを聞くのだった。
カナデたちも葛葉の後に続き、積荷を降ろすのを手伝うのだった。
読んで頂きありがとうございます!!
積荷を降ろすのがクエストって、引越し業者?
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