九話 許さんぞ鬼丸
全ての元凶だ!
「英雄さm―――…………」
カナデが再び甘い声で葛葉に抱き着こうとした時だった。今まで鬼丸のせいで隠れていた左手の小指が、カナデの視界のど真ん中に映ってしまったのだ。
甘い声が突然途切れ、不穏な雰囲気を隣で醸し始めたカナデに、葛葉がギョッと驚くのだった。
「英雄様。なんですか、それ。誰から貰ったんですか、それ。」
「え、え〜っと……カナデちゃん?」
目が死に、感情も消え失せ、生気を感じさせない声で、疑問符もなしにそう問い詰めて来るカナデへ、葛葉はどうにか声を掛けるのだった。
だがカナデの表情が怖すぎて、バッと顔を本能的に反対側へ向けてしまった。
「教えて下さい。なんですか、それ。私は怒ってませんよ。ただ教えて下さい。なんなんですか、それ。」
問い詰めて来るカナデに、葛葉は情けなくも喉から「ひぃ〜」っと声を出すのだった。
怒らないと言っておきながら、顔が本気だ。絶対に怒ってる、多分今までで一番怒ってるはずだ。
それにマルハラもして来てるし!
「あ―――‼︎ 葛葉さん、なんですかそれー‼︎」
と唐突に横から割って入って来たのは、物凄い速さで流れていく景色を楽しげに見ていた律だった。
律にも見えたのだろう、葛葉の小指に嵌められている物が。
「まさか男ですか⁉︎」
「……っ!」
「っ―――」
律のそんな一言が更なる事態の悪化を招いてしまった。
御者の人の話を聞いていた五十鈴の耳に流れ込んできた『男』というワード。そして実はすでに気が付いていた指輪。
導き出されるアンサーは、先日葛葉の胸を揉んだ男―――‼︎
「葛葉様、お話を聞かせて下さい」
全く違うアンサーを導き出した五十鈴が正面から葛葉へ詰め寄り、斜め前から「それなんですかー!」と問い詰めて来る律。
そして右からホラー映画とかの日本人形が鳴らしそうな音を、首から鳴らしながら見つめて来るカナデ。そして全ての元凶たる鬼丸は……葛葉の腕の中でぐっすりと眠っていた。
「………………もう、やだ」
葛葉がそう言うと同時に御者台の人物と開ければ話が出来る小窓が、スーッと閉まるのだった。
小窓の取手から手を離して葉巻を指で挟み、そしてぷはぁーと煙を吐く御者の人。
「モテるってぇのは大変だねぃ〜」
そう言ってまた葉巻を吸うのだった―――。
読んで頂きありがとうございます‼︎
実は気付いていたって言う五十鈴ちゃん……。流石に男となると話を聞きに行っちゃいますよね〜。
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